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続・ブックマルシエ

アナログ作家の創作・読書ノート        おおくぼ系


 本がどんどん増えていく。かけもちで読んでいるものも多くて、ついそのままになっているのも多い。読まねば……体にインプットしていかねば、アウトプットもないので常に何かを感じるために、また何かを探し取り入れるために、いつも、常に何かをさがし、考え続け、感性に練りこんでいるのである。

 こう突き詰めて考えていくと、保坂和志の『いつまでも考える、ひたすら考える』が連想され本を手に取ってみると引き込まれていくのだが、今回は、本来のテーマであるマルシエにもどろう。

 

 多くなる一方の本を何とか処分せねばとは思うのだが、手に取ってみると愛着が香りたってきて、そのままページをめくり読み込んでしまう。そうなると愛おしさで、離れがたくなる。かわいい子には、旅はさせられないのではないか?

 

 近郊で地域おこしの〈ふるさとまつり〉のイベントが催され、フリマもあるとのことでマネージャーが、〈参加するべ!〉と意気込みだした。

彼女のエネルギーに押されてしぶしぶと出品作品を選び出したのである。基本は本であるが、趣味の飛行機コレクションも出してみるべとなり、気乗りうすながら〈世界の戦闘機シリーズ〉を八点ほど選んだ。書籍は、若干の文芸書とスピリチヤル、片づけ方、恋愛の方法などの実用書、さらに浮世絵などの図版ものと、色とりどり合計50点ほどとした。

 

 当日は雨とのことで気をもんだが、曇り空とはなったものの、持ちこたえてラッキーなスタートとなった。

 まずは身支度をと、胸からのキッチンエプロンをたらし前ポケットのうえには、おおくぼ系どんのネームプレートをつけた。10時の開店を目指して、服や本を展示していると、突然、オジサンが二人並び立った。今並べたばかりの〈世界の戦闘機シリーズ〉を手に取り、いくらで売るかと聞いてくる。購入定価が、一つ1,550円ですから、やや古くなったので一つ500円でと答えると、しばらく考えていいたが、三つ千円でいかがとなった。

 そんなもんかと手打ちと相成り、戦闘機モデルにさよならをした。このシリーズは、

レシプロ機だけではなくジエット機も多彩で、ややスケールが小さいのが難点であるが、コアなフアンも多いのだ。B52などを選んでいったのは、目利きであり、いわゆるサヤトリではなかったかと思えた。

 

 サヤトリというと、いまだに浮かんでくるのだが、「M」という芋焼酎のことであり、いろいろと考えた。東都ではこの蒸留酒の一升瓶、一本が約30,000円で売られている。Mは品質にこだわった最高級の焼酎として、東都のデパートにて特売したのが始まりであるのだが、地元では当時は2,000円で買えたのである。地元でMの噂がひろまり、醸造元では50本を限定として定価の2,000円で直売していた。そのために毎月の発売日になると、醸造元には朝早くから、購入整理券を得ようと行列ができて、交通整理のためにパトカーが出動することとなった。

あまりにも周辺が混雑するので、SNSが普及するようになっては、購入申し込みをパソコンなどで行い抽選することになった。それでもM熱は盛んで、手に入ったから一緒に飲もう、から商売となり7,000円でどうだと売買されるようになった。おいおい、地元で商売をするなと言いたいが、それでも東都に出せばけっこうなサヤ取りとなる。地方と中央、推して知るべしである。東都に行けば焼酎も数倍に味が増すのであろう(笑)。

 

 閑話休題、マルシエにもどる。無事開店となり、店の半分には服をハンガーにつるしたり床に並べたりし、残りのスペースに、アットランダムに本の表紙が見える様にシート上に配置した。

 まずの来店は、年配のオジサンで薄い髪やひげが白い。口調はしっかりしており本を読むのが好きだと言われる。今野敏の『隠蔽捜査』が一巻から5.5巻まで並べてあったのを手に取り、一巻は読んだという。となりの東野圭吾の中から『聖女の救済』をとりあげた、〈ガリレオの新たな敵は女〉という人気作。1巻をのぞき、これらを一括して購入された。まいどあり~となったが、やはり、売れっ子作家はつよい。

 安藤広重の版画集が、つぎのターゲットとなった。これは絶対お買い得の自信本である。やや古いが、箱にはいっているために中はしっかりしている(それなりに?)。

 

 さらに伊藤淡水の美人画集、奥田ロボット氏のイラスト集、中国国宝展の分厚い図版などが求められていった。藤堂静子の文庫本などは、もってけドロボーで無償譲渡となった。

 マネージャー氏の衣類も売れて、まあまあの成果であったが、客は午前のみで午後からはさっぱりであった。そして、まあまあの成果をあげて、午後3時となり閉店となった。

 

 で、今回の読書については、前回紹介した五条瑛の鏑木シリーズ二作目の『塔の下』である。これも面白く一気読みしてしまった。作者は防衛庁に勤務していた調査専門職というキャリアを持つ女性作家なのだが、このヤーさん小説は、ハードバイオレンスというより謎をおいかけるミステリー小説ともいえ、安心して読める。

 タイトルの『塔の下』の塔とは、錦糸町にできたスカイツリーを暗示しており、下とは下町を意味していると思える。

作者は、「タワーは立派だが、周辺に広がる下町が新宿や六本木に変わるわけじゃない。二、三年もすれば、観光バスの立ち寄り所の一つでしかなくなる。観光客はトイレに寄って、おもちゃのタワーが付いた安いストラップを買ってそれで終わりだ。新らしいものが町を潤してくれるってのは幻想でしかない」と述べる。

さらに、

「古くから残っているものには、いいものも悪いものもある」とし、「人の暮らしってものは、いいものや正しいものだけじゃ成り立たないようにできているのさ」と続く。

このあたりにヤーさんへの愛着の気持ちが感じられる。

さらに最後には、「正義にしろ悪にしろ、永遠に栄えるものなどどこにもない」

と締めくくる。

 この透徹した視点、なんともすごい女性作家だと思う。



             (適時、発表します。ヨロピク!)

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