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夢、叶えよう。【第十一夜】

クソッタレ。

ここまで書いてみると、あれよあれよという間に順調……という感じを受けられるかと思います。

いや、辛酸を舐めたこともあります。

派遣先に朝行くと、一人の初老の男性社員が応接セットに足を投げ出して、新聞広げて、どかっと座り込んでいる。そして「おい、お前、タバコ買うてこい」と、小間使いとして私を使うんです。それも頻繁に。

そのおっさんのタバコを買うために、その会社にいるわけじゃないんです。なので、ある時、懇意にしている編集の人に「アレはない」と抗議しました。

「まぁ、言いたい気持ちは分かる。だけどな、考えてほしいんだけど、応接セットに座って、一日中、同じ新聞読めるか?」
「……普通なら飽きます」
「せやろ。でもあのおっさん、それ、ずっとしてんねん。飽きずにな。あの人、本来は新聞記者やねん。でも原稿書いているとこ、見たことあるか?」
「いやぁ……」
「……仕事がないねん」
「はぁ……」
「昔はな、新聞記者として活躍しとったんやけど、徐々に仕事がなくなって、本社からも外された。で、こっちの出向先に来たんや。だからな、もう戻れないのよ、あの人は」
「……」
「記者って、自分の足で聞き回って、原稿書いてナンボやねん。でも、あのおっさん、それがでけへんねん。記者として死に体、いや死に損ないやな」

そういえば……他の人が業務が多く、塞がっていた時、広告の営業の人がその人に恐る恐る声をかけて、仕事を依頼していた姿を思い出した。
応接セットからわざとらしいほど、面倒臭そうに起き上がり、自分のデスクに座って、営業の人の話を聞いていた。

「あのおっさん、昔はかなりやり手やったんやけどなぁ。噂やけど、なんかチョンボしでかしたって聞いたことあるけど、まぁ、あんな性格やろ、冗談でも面と向かって聞かれへんやろ」

今、思えば、自分の足で拾ってきた情報を、自分の思い描いた文章で書いていた新聞記者が、誰かの“指示”の中でしか文章を組み立てられないというのは非常にやりにくく、やりがいを見出すのが難しい仕事に思えます。

ただ、当時の私はそこまで頭が行きません。(なんであんなおっさんに指図されなぁあかんねん!)その思いしかありません。
一方で、そういうおっさんに小間使い扱いされる程度の、「小さな存在の自分」というものにも呆れ果ててしまうわけです。

早くこの立場を変えたいと願うばかりでした。

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