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【読書履歴】まいまいつぶろ

著者:村木嵐(むらきらん)
初版:2023.05.25

 私は割と涙脆くて人情もの時代小説で泣いてしまうことはよくあるのですが、本作は何度も目頭が熱くなり嗚咽を漏らしてしまいました。忠実に歴史上の人物を配しながらその一人一人を丁寧に人物描写していき、さもありなんと思わせながら、巧みに心情み溢れるフィクションをリアルに描き出していて、個人的には久方ぶりの傑作だと思います。

 本作は、第9代将軍徳川家重とその小姓大岡忠光ふたりを描いた歴史小説。口がまわらず、誰にも言葉が届かない。歩いた後には尿を引き摺った跡が残るため、まいまいつぶろ(カタツムリ)と呼ばれ、蔑まされた君主がいた。常に側に控えるのはただ一人、彼の言葉を解する何の後ろ盾もない小姓・兵庫。麻痺を抱え廃嫡も噂されていた若君はいかにして将軍家重になったのか。

 「私は本気で、将軍を目指しても良いか」

 人と人が真に心を通わせることが出来得るのか。普通に生きることが果たしてそうであるのかないのか。人が背負う業や苛酷な運命とどう向き合って生きていくべきか、真実は孤独の中にあるのだろうと問う一作だと思います。

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