第十章(下)
「良し!良し!」
周英超がカフェのほうへ走っていく。
「彼が道を知っているの、こんなに速く走って、なんかさっきと違って、ずいぶんいい調子じゃないの、一体何があったの、」穎毅然が隣の一時の同僚に小声で聞く。
「その人は鐘(ゾン)さんの友達らしい。前ニ、三度来たことがあるみたいだ。あっ、たしかクラスメイトみたいだ。気が荒いから、気をつけて」
「もっと詳しく言ってもらえないの」
「この前飲みすぎてロビーで吐いてしまった。飲みすぎて、トイレの方向を間違えて係に当たり散らすことって少なくないけど、彼は言いぶりときたらまずい、正直、学生の身分を知った時に驚いてしまった。」
「学生なのか。そういえば、私たちがこのままで待てばいい?」
「さっきの兄さんの言うように待てばいい。そうだ、日本語ができるだろう」
「それはそうだけど、どうしたの」
「さっきの女の二人がなんと喋っていたの、日本語だったろう」
「えい、日本語だった。でもあまり遠くてもあまり聞こえなかった。たぶん旅行についてのことなかもしれない」
「旅行なのか、あのね、その娘は日本語がとても上手だろう。ずっと、ずっと一人で喋っていて、もしかして彼女も日本人なの、でもなんか、」
「それが判断できにくいね。出で立ちからすれば日本人じゃないと思う。中国人だったら、日本語が上手なタイプなわけだ。日本人を相手としても話題の主導権を握りしめるのはただ日本語の能力に決まっていることじゃない」
「というと、」
「話し合い、もっと詳しく言えば日本語の話筋にも詳しい」
「そうか、こっちの人ならみんな日本人と話した経験があるけど、ずいぶん前のことだった。」
「何話していたの」
「それは、」男の人が苦笑いをして、声を殺して言い足す、「上の人のことね、たとえ日本人と会ってもせいぜい半分間くらいになれば電子書籍とか何かでないと続けない場合になる。せめて、うちの部門はそれこそ常態だ。一般なのは単なる聞き手なのでまもなく白ける。さっきの男のって日本に何年も住んでいたそうだ」
「道理でメイクをしていたね」
「まあ、まあ、平気だ。そのような人と仕事相手にしたことがあるから、彼は気性がもうずいぶんいいんだよ。」
「そうか、」穎毅然がこっくりする。
雨足が段々激しくなるとともにロビーを行ったり来たりしている各々の人の足音も弱くなるように聞こえる。
自動ドアに向かっている穎毅然の左手の果てから一人の男の人が現れて続々と一群の係がついてきた。彼らはホテル各部門の部長こそだ。
「おいおい、お前らなにやっているの」
始めとした男の人は穎毅然二人を見て叫びだして刻み足で二人のところによってくる。
「陳部長、すみません」
「だから、なんでここにいるの。昨日の知らせを知らないの」
「陳部長、実はカフェのブースを予約しておいた二名のお客様を、」
「結構だ!」
厳つい声がロビーに響き渡る。
「どうしたの」
速歩で各部門の部長を振り切って、陳部長についてきたのは映月南霞湾このホテルの支配人である趙裴鳴(ザォペミン)だ。
「申し訳無い、趙さん、どうやら昨日の知らせをよく説明していなかったみたいだ。」
突如に叱りつけられた穎毅然が謝りも忘れたほど驚いてうなずいている。
「確か、えっと、劉明早(リュウメイザオ)の客なはずだ。学校の日本人の非常勤だっけ。もう久しぶりだね、しかも会議も今日にかぶっているなんて、彼らのことより‘その仕事’に怠るだろう。フロントのほうにちゃんと復唱するほうがいいよ。外国人チェックインの手続きはあまり複雑ではないけど、さすができた人がほとんど上海方面に転出されてしまって仕方がないなあ。強調しないといけないことだ。」
「はい、はい、わかった。手続きに関する説明文を書き終わり次第下に配布する」
二人にと変わって、ホテルの支配人に向かうと陳部長の威張りの固さがとうに散り砕けた。
「お二人、」ホテルの支配人の趙裴鳴がぼんやりした二人に一声をかける。
「はい、趙さん」
「一応待っているお客様に電話をしよう。一応時間を確かめたほうがいい、お客様に触るかもしれないけど、今朝大きな商談が行われるという知らせを知っているだろう。あとはたくさんの記者が押し寄せてきてしばらく出入りが管制されるので、わかるの」
「はい、わかりました。では、」
穎毅然が見倣ってその人の後ろに速く離れる。
「お二人なんで来たの、お客様は?」
ちょうどカフェのエリアの外に立っている美男子がしょんぼりした二人に質問を投げ出した。
「あの、もうすぐ会議の時間になる、支配人の趙さんたちが今そこでお客様を迎えている様子だ」
「それもそうだ。会議のことね、」
「そう、そう、電話をやってきて、待て」美男子が啖呵を切って、電話をする。
「はい、あの、お友達も心配しているから、知らせることはやるべきことだ。はい、構わない。」
「お客様がまだ十分間くらいして、お二人、いや、一緒に行こう」美男子が憂いの顔をして二人と一緒に出迎えに行く。
美男子に連れられている二人がまるで俎板をあっちこっちにやみくもに飛び回っている蠅のようにロビーに戻ってくる。
「ちょっと待って、」美男子が後ろの二人を呼び止める。
今時のロビーはさっきホテルの支配人に言われたように賑やかになっている。穎毅然が身体を些細と傾けて、大勢集まっているカメラを構える記者が先を争って、一つ一つの質問を聞き続けている光景を覗いている。
ビジネスの黒スーツをした四人がオールバックにした茶色のスーツにしたという出で立ちの男の人を取り囲んでいる。茶色をした男の人が話し終わるたびにずっとそばに付き添っている人に一言を添っていると付き添いが周りの五人と話している。六人を囲んだのは軽装をしたのや、スーツをした何人例外もなくマイクを握りしめていている。
シャッターの音や問いかけの声がほぼ対話の声を遮ったほどの記者たちの狂ったような熱意は。
まだ、スーツをした一人ひとりが続々自動ドアを通ってロビーに入っている。
「山兵大野さんが本当に中華文化に詳しいね。もしかして中国に長く住んでいただろう。お通訳の中国語もしゃべしゃべして、本当にすごい」
付き添いの通訳が感謝の気持ちを笑顔で頷いてから、日本語のまま茶色のをした男の人に伝えた。そして山兵大野(やまべおおの)が大笑いをしてから急に黙るようになった。それを見た衆人が一時に声も途切れて、止まることになった。
「えっと、えっと」茶色のスーツをした男の山兵大野に交渉しているはじめとした例の人はその反応に表情もぱっと崩れて戸惑いを見せる。
「すみませんでした、すみませんでした。ふい懐かしいことをおもいだしてしまいました。」
茶色のスーツをした男が言いながら、謝っていていた。すぐそばの通訳者も直ちにせっかくの雰囲気が私のせいでということとか現場の一人ひとりに意思をちゃんと疎通させたようなことで、話していた言葉の長さよりもっと真摯な謝意を含まれた言葉の重さに誰でも心が打たれたかのように互いに見合って嘆声をしていたという状況になっている。
「おくれてしまいました。ごめん、ごめん、」
今度入ってきたのはいくつのそばかすのついた鼻をした、疎らの白いあごひげを蓄えた、竿のような痩せたほどの五十歳くらいのように見えた男の人だ。
「あの、私は予めにうちの学校の副学長の劉明早(リュウミンザォ)の代わりに今回蘇州にお越しになった日本側蘇州実地調査訪問団の方々にご謝意をさせていただきます。劉さんが最近蘇州地元振興産業に関する日本語に訳した資料の校正の作業にいそがしくて、本当に猫の手をかりるほどです。なにとぞご理解をいただけば何よりです。」
「お二人ども、お知り合いなの、」はじめとした男の人が驚いた。
新たな話題に出ると同時に、ジャーナリストたちの目もそちらに移っていく。
「いいえ、知り合いまでは言えない、一面識くらいだ。山兵さん、おひさしぶりです」胡豪威が笑ったりする。
「胡豪威(フハォウィ)、胡(フ)さんでしょう。今度、胡さんに中方の通訳としてやっていただけてほんとうにたすかります。劉さんのことはじゅうぶん心から理解しています」
「すみません、一言を挟ませてもらえて。日本語ができないけど、お二人は仲がなかなか良さそうだね。今度胡さんの助けをもらえたのはほんとうに何よりだ。あの、ここは混雑だし、よろしければ世間話を延ばしてそっちの会議場へどうだろう」
はじめとした男の人がばしっと二人の対話をとぎらした。
「はい、お言葉にあまえて、」
はじめとした男の人が跨ぎを大きくしてからホテルの支配人に掛け声をした。そっちも一秒たりともせずにはじめとした男の人によって応えた。こうして彼は記者陣に取り囲まれたまま左手の通りの突き当りの会議場に消えた。
「よし、彼が行った。行こう」美男子が一歩踏み出すか踏み出さないかのうちに、カフェの主管の声がインターホンから漏れてきた。
「もし、もし、4番、4番、聞こえるの、今カフェのフロントに来て!急いで、急いで、手配が変わった、急いで、急いで」
「はい、すぐ参る、すぐ参る、」
「あの、お客様に電話をするからお前らがロビーで待てばいい」
美男子が嘆いて、やむを得ずに待つという任務の主導権を二人に押し直して、振り向かずにカフェへ歩いていった。
「また二人になってしまったね」穎毅然がそばの男の人に苦笑をする。
「まあ、今日のようなことはたしかに珍しいからだ。さあ、回転ドアのところに行こう」
「はい、」
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