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マゾ声楽家(イメージ版)

コンクリート打ちっぱなしの小さな牢獄に、澄んだ歌声が響き渡る。
照明代わりの蝋燭の炎が歌声による僅かな空気の流れを受けて、ゆらゆらと揺れている。
牢獄に捕らえられ白いネグリジェを着た女は、鉄格子のその先の、暖かい明かりの漏れる扉に向け、その扉が開かれるのを待つように、そして誰かを呼ぶように歌い続ける。
彼女にとって歌うことは自分を表現するための最大で最良の方法。
その才能を見初められ、とあるサディストにより動物同然に飼われ、この牢獄が彼女の生活空間となっている。自分の意志で自由に出歩くことは許されず、2本の足で歩くことも主の許可がいる。食事は給餌皿に入れられたものを犬のように口だけで食べるように躾けられている。


手足の自由を奪われることも、
麻縄で呼吸を制限されることも、
目隠しや口枷をされることも、
日常的に躾として受けている。
一部の感覚を制限して生活をすることは、それ以外の感覚を研ぎ澄ますことに繋がる。

それは彼女の歌声をより高いレベルに引き上げるための教育法。そしてそれは性的な感覚ですらも同時に鋭敏にしてしまう。

主(あるじ)から受ける数々の加虐行為は、彼女のマゾヒストとしての分人を目覚めさせ、痛みや苦しみのその先に見える快楽を感じ取り絶頂へと導く。
その快楽を再び感じようと、主から受ける行為を思い出そうと、彼女はまた歌い始める。
飼い犬が主の帰りを待つように。


牢獄へ繋がる扉が開かれ、主の手により黒いドレスに着替えさせられ、首輪にリードが繋がると、それが外へと連れ出される合図となる。
リードを引かれ明かりのその先へ四つん這いでゆっくりと歩いていく。

そこはサディストとマゾヒストの狂乱の宴。

十字に張りつけられ鞭打たれる女、
足蹴にされ床に転がる男、
複数の男に囲まれながら性交を強要される女、
全裸で首輪を付けられ犬のように扱われる女、
宴ではあちこちでアブノーマルな行為が、そこかしこで行われている。

宴の中央、主に連れられた彼女にスポットが、当たる。
土下座でひれ伏し、忠誠の誓いとして革靴を両の手に取り舌で舐める。
主はもう充分とばかりに彼女の頭部から顔面にかけて踏み抜くと、彼女の目線の位置まで腰を屈み「歌って」と囁くように合図する。

彼女はついに立ち上がり、堂々と歌い始める。

周囲ではアブノーマルな行為中の男女の嬌声悲鳴が歓声のように揚がる。彼女の歌声が宴をより品格ある場所へと飾り立てていく。
周囲の感声を浴びながら彼女自身も脳から下腹部から快感が襲い何度も絶頂を迎える。
歌いきった彼女は知らずうちに再び四つん這いに戻っていた。

歌い終わった彼女に主は再び目線を合わせて言う「帰ろうか」

「わん!」

愛犬は元気に吠えた。



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