序章 パンがないならご飯を食べればいいじゃない
彼女は、子どもの頃、母方の祖母に訊かれたことがある。
「仁美ちゃん、パンが切れているのだけれど、今日は、ご飯でいい?」
彼女は、それを聴いて、自分が蔑ろにされているのではないかと思った。
「大人にはいろいろ都合があるのよ。だから、あなたは、我慢しなさい」
そう言われている気がした。
だから、彼女は、ひとこと言った。
「パンがいい」
それを我儘だと言う人もいるだろう。
「これだから一人っ子は」と言う人もいるだろう。
…彼女は、選ぶことが出来ない大人になった。