天国に空席はない
彼女の母親が亡くなったとき、彼女は、彼女の母親とともに彼女の母親の実家に帰っていた。
優しい母方の祖父母。そして、母。
それがその家での彼女の家族だった。
彼女の母親の兄夫婦やその子どもが彼女を虐げるなんてことは、決してなかった。
ただ、彼女は、疎んじられていただけだ。
できるだけ、自分たちのところから離れていてほしい、それが彼らの願いだった。
彼女は、彼らと同じ食卓を囲むことも許されなかった。
椅子は、6つしかなかった。
流し台
◯
◯ ◯ 納
● ◯ 屋
◯
居 間
●の席は、彼女の母親の兄が座る決まりになっていた。
しかし、その席は、空席になっていることが多かった。
彼女の母親の兄は、残業のため、他の者と食事を共にすることができなかったのだ。
つまり、●の席は、いつも空席で、その席には、彼女の母親の兄が食べるための料理が用意されていた。
彼女はいつも思っていた。
この席に私が座ればいいのではないか、と。
しかし、彼女は、それを言えなかった。
我慢するしかなかった。
置いてもらえて、ご飯を貰えるだけでも有難いのだ、我儘を言って、ご飯を取り上げられたら、…いや、この家から追い出されたら、私は生きていけない、生きていくためには、我慢することが必要なのだ、と。
当時、彼女は、3歳で、その思考をことばにする力を持っていなかった。
しかし、彼女は、確かに思っていたのだ。
強かに自らが生きる術(すべ)を探していた。