映画「怪物」二次創作5 星川家 新改訂版
「これ、生徒達が折った折り鶴なんです。星川君、見つかると良いねって皆でね心を込めて折りました。本当に…早く見つかって欲しいですね。」
チャイムが鳴って出たら、星川キヨタカにとって見たことが無い女教師が段ボール箱を持って玄関に立っていた。
「えっ…折り鶴。わざわざすみませんね。わかりました。じゃっ」
そう言うと星川ヨリの父であるキヨタカはすぐにドアを閉めた。
「なんか涙ぐんでいるように見えたけど、前任の後を継いで新しく担任になった先生だよな。だれだっけ?副担?」
受け取った段ボール箱の中を見たら折り鶴が千羽くらいは入っているようだった。
「うわ、これどうすりゃ良いのよ。」
そう言うと窓を開けて外の庭に放り投げた。
「捜索隊は、まだ探しているらしいけどな…
どこに行ったんだか」
座ってテレビをつけるとコンビニから買ったビールとつまみを出して呑みはじめようとした。
その時にスマホの電話が鳴った。
「ああ、母ちゃん…何?」
「ヨリちゃんはまだなの?」
「ああ、見つからないね」
「キョウコさん(仮の奥さんの名前)と別れて。ヨリちゃんも見つからなくてひとりでしょう?つらいね」
「あ?うん。」
「私もつらくてつらくて」
電話の向こうでキヨタカの母親が泣き出す声がした。
「あんなに良い子が、いなくなるなんて信じられないよ」
「そうだね。あいつ…愛想は良いからな」
まだ電話の向こうではすすり泣きの声が続いていた。
「俺、疲れてんだわ。もう切るね」
そう言うとキヨタカはスマホを切った。
お袋は、俺を可愛いって言った事があったっけ?
まぁ、お袋は暴力をふるわなかったけどな。
ビールを半分くらい飲み干してから
身体が軽くなり
やっと落ち着いた気持ちになった。
あー疲れてる…そう、疲れてるんだよな俺は。
ヨリか…
学校に行く前から普通の子供っぽく無くて
宇宙の不思議みたいな絵本が好き
空想好きで、ひとりでニヤニヤしていた。
何考えてるんだか不気味だった。
何をされても笑っていた。
俺なんか父ちゃんにいきなり殴られたら泣きわめいたよ?それなのにヨリは俺のご機嫌をとる事を考える。
それにあいつ◯◯だし。
キヨタカはポテトチップスを開けてバリバリと音をたてて食べた。
何をされても…感じねぇ。
泣きもしねぇ。
あいつはおかしい。
そういや、ふたりがいなくなった時に麦野君の親と先公が泥だらけの姿でうちに来てびっくりしたわ。
あの時は俺も雨に濡れてましたけど〜
だけどあのふたりってバチバチだったんじゃねぇの?
「豚の脳」ってあいつがねぇ?
…俺がヨリに言ったんだけどな。
それで、あの先公が麦野に暴言?
そのニュースがテレビで流れて初めて星川キヨタカは学校の話を知った。
「ええっ?お前、これどういう事だ?あの先公そう言うやつに見えなかったけどな。ボサーっと突っ立っていて、オタクか陰キャみたいでさ(笑)」
その日、キヨタカは外呑みをしてから帰って更にビールを居間で呑んでいた。
ヨリはキヨタカから離れた食卓にいて作文を書いていた。
「聞いてんのか?おい!ヨリ」
ヨリは作文を書いていた手を止めないまま言った。
「お父さん、そんなに飲むと体に良くないよ」
「うるせぇよ。
先公はお前に言ったんじゃねぇの?」
ヨリが初めてキヨタカの顔を見つめた。
「先生、麦野君に言ったんだよ」
「なに〜?麦野君、お前と似てるのかなあ?(笑)」
いつも口角を上げて何も考えて無いようなヨリが一瞬怒りの表情になった。
「酔っぱらい」小声でヨリは言った。
その声はキヨタカに聞こえなかったが
キヨタカは反抗的なヨリのまなざしを見逃さなかった。
「麦野君も、豚の脳の改造人間か?」
ヨリはダン!!っとはげしく立ち上がり
自分の部屋に行こうとした。
「おいっおいっ!!お父さんは、お前と話している途中なんだよ」
ヨリは二階に上がろうとしたがキヨタカが腕をいきなり掴んで引き寄せた。
「お前聞けよ!こら!俺が質問をしてるんだろう!」
「麦野君は豚の脳じゃ無いよ」とヨリは言った。
「お前といると、伝染るんだよ!」
キヨタカはヨリの頭をもう一つの手で叩いた。
「じゃあ、お父さんもだよね?」
「あ?なんだと!てめぇ!」
ヨリをそのまま引きずると風呂場に持って行き戸を閉めた。
「お父さんに口答えをするなんて、お前はなんて悪いやつだ!そこで反省をしていろ!」
なにも言わないヨリ。
だが、キヨタカは階段の下に散らばったヨリの書きかけの作文に気が付いた。
そして、数枚あるうちの1枚を手に取った。
「なんだあ?この書き方は」
「ほいく園の時、お父さんに…
ほしかわよりむぎのみなと…」
そして他の原稿用紙も手に取って読んだ。
キヨタカの顔色が変わった。
キヨタカはその作文を破いて叩きつけた。
「おいヨリ?本当はやっぱり良い子じゃなくて
悪い子なんだな?おい!ヨリ!」
キヨタカはお風呂場に向かった。
ヨリが保育園に行くようになってから
妻のキョウコは、結婚前に勤めていたガールズバーにまた通うようになった。
「なんで?稼ぎが足りないとでも言うのか?」
とキヨタカは言ったが、確かにキヨタカは夜遊びが派手でよくお金を使っていた。
日常のお金はギリギリの額を妻に渡していた。
夜の保育園にヨリを置いて、妻は勤めていたがある日を境に帰って来なくなった。
「畜生畜生!キョウコ!キョウコのやつ許さねぇ」
キヨタカは酒癖が悪く呑むとキョウコを殴っていた。
お金の事もあった。
だがキョウコはキヨタカの夜の扱いから逃げるために、昼の仕事よりもむしろ夜に働くようになったとも言える。
当のキヨタカは朝起きると酔いが覚め
妻への罵りや暴力の意識が遠ざかっていた。
ヨリへの暴力で泣きわめいていた息子の事も忘れていたのかもしれない。
キョウコは常連のひとりと飛んだと、マスターに聞かされた。
小学校に入る前、ヨリが5歳くらいの時
キョウコが居なくなってヨリはキヨウコの部屋に行き
1番気に入った可愛い服を選んで着た。
「見て見て!」
得意になってヨリはキヨタカの所に行った。
一杯呑みながらテレビを見ていたキヨタカはその姿をまじまじと見た。
「女の子みたいだなヨリ。お前、脱げ!」
ヨリは一瞬怯えた。
「脱げ!脱げ!ヨリ!」
ヨリの身体を掴むと無理やり脱がせて、服をゴミ箱に投げ捨てた。
「お母さんの服をもう2度と着るな!」
何故そんなに叱られるのかわからなかったが、ヨリは
キョウコの服を着た自分を気に入っていた。
だけど怒られるのでキヨタカがいない時に可愛いうさぎ柄のピンクの服を着て、そして外にも出た。
近所のおばさんが
「まぁ、ヨリちゃん可愛いのねぇ〜女の子みたい」
と笑って頭をなでた。
「そういえばヨリちゃん、お母さんはどうしたの?」
ヨリは
「帰ってこないの」
とだけ言った。
数日してキヨタカがまた外呑みをして帰ってくると
「ヨリ?こっちに来い」
と言った。
「なぁにお父さん」
「ヨリ、お父さんな
近所のおばさんに言われたぞ。お前女の子の格好をしてたってな。そういう格好をさせるのって?
それにな、凄く可愛いって言ってたぞ」
「ほんとう」
ヨリはニコニコして立っていた。
だが、キヨタカはヨリをいきなり殴った。
思わずしゃがみ込むヨリ。
「てめぇ2度とお母さんの服を着るなと言っただろう!?俺に黙ってまたお母さんの部屋に入ってタンスから出したのか?
あとなあ、お母さんの事も他人に言うんじゃねえよ。わかったか?ヨリ!」
「うん」
泣いたりすると更に2発3発殴られる事がわかっていたのでヨリは無言で立ち上がった。
「うんじゃなくてはいお父さんだろう。あとヨリ、水もってこい。早く!」
「はい、お父さん」
急いでヨリはコップに水を入れキヨタカに持っていった。
キヨタカはそれを受け取り飲むと
「あ〜うめぇな。ああ、ありがとうなヨリ」
と言って笑顔になった。
キヨタカのために何かをすると褒められるので、ヨリは少し嬉しい気持ちになった。
「だけどなお前、男らしくしろよ。わかってるなヨリ、お母さんみたいな格好を2度とするなよ!わかったな!」
キヨタカは更に憎々しげに言った。
「そんな事をするなんて、豚の改造人間ぐらいだ!絶対にやるなよ!」
「えっ?豚の改造人間?」
「そうだよ。キョウコは豚だ!豚!!
ブヒヒーブヒヒヒヒーこれキョウコ!
お前もそんな格好をしてるとな
キョウコの脳みたいになるんだぞ!
キョウコみたいになりたくねぇだろ!」
まだ言い足りないのか続くキヨタカ
「男女め!ヨリ!
しかもお前は男だ!
普通じゃ無い。
しまいに入れ代わったら怪物になるんだ!
化け物だ。病気だよ!ええっ?
『はい』と言えヨリ!
『はい』早く!言えぇー!ヨリ!!」
「はい…お父さん…」
階段の下にヨリの書いた原稿用紙が散らばっていた。
「キョウコもヨリも俺を馬鹿にしやがって!」
紙きれをキヨタカは踏みつけた。
「おいヨリ!作文に書いてあった事、俺わかっちゃったぞ!ヨリ!お前らどこまでの仲だ?!ヨリ!」
キヨタカの足音が近づいてくるのが聞こえて来る。
お風呂場に閉じ込められたヨリはずっとミナトと隠れ場で遊んでいる風景を思い出していた。
「麦野…ミナト
ねぇ?ミナト……
怪物
怪物だぁ〜れだ!」
お風呂場のドアが開いてキヨタカが真っ赤な顔をして立っていた。
✳星川家のパートが無かったので
『ヨリとミナトが仲が良い』『自分を裏切っていた』
という父親の怒りの夜を付け足しました…
勝手に。
これで、映画でいきなり何故父親は知ったのか?という謎のピースが埋まったでしょうか。
星川キヨタカとホリ先生が話している時に
自分マウントをしていた父親なのですが(大手不動産業だったらしい?)庭の荒れ方を見ると家庭の荒れようがわかりましたね…
言っている事も、これはホラー映画かと思う程酷かった。
親が厳しいと、子供は
人の顔色を見る癖がつくそうで
我慢も覚えるし
普通の子供よりも良い子に思われます。
でも、愛が無かったらどうなるのだろうか?
✳3月24日 また加筆修正を致しました。
是枝裕和監督 坂元裕二さん
勝手に星川家のパートを付け足しました。
すみません。
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