眼瞼下垂症の再手術②
前回に引き続き、眼瞼下垂症の手術記録。
1泊入院して帰宅したら、小鉄くんがずっと膝にいて「うちのねこちゃん最高にかわいいな!?」となった。
当日は午前のうちに入院したものの手術開始予定が思いのほか遅めの夕方で、がっつり原稿作業ができてしまったというのが想定外だった。
休むつもりだったけど念のためPCを持って行っていて正解だった。
1日分、しっかり進んだ。
前に同じ手術を経験しているだけに、術前の時間も「怖い怖い怖い、やだやだやだ……」とはならず、どうせ手術室でビビリ倒すのだから今ビビッてどうする、という潔さとも諦めとも取れる開き直り方をしていた。
原稿の世界に没頭できる程度には余裕があった。
予定時刻の少し前に看護師さんが迎えにきてくれて、いよいよ手術室へ向かう。ついに来てしまったか……やだなあ……とは思いつつ、ヘアキャップの中に髪と耳を入れていざ入室。
手術台に寝転ぶと血圧計や心電図、あれこれ線を繋がれる。
やだなー、やだなー、と怖い気持ちが3割くらいまで膨らみ始める。
先生がやってきて、よろしくお願いしまーす。
となり、ひとまず麻酔前の目薬。
しみる。
顔面の鼻より上を丁寧に消毒され、目元以外を布で覆われ、すっかり手術スタイルが完成したあたりで困ったことがあった。
顔が痒い。
なぜ今。
手術中ずっと私はこのムズムズと走るような痒みに耐え続けるのか。ムリだ。
掻きたい。爪でカリカリ、ポリポリしたい。今すぐに。
それはもう本能。
でももう消毒も事前準備も終わっている。
ここで顔に手を持って行ってしまうと不潔。1からやり直しだろう。
「……先生、今になって顔触るとマズイですよね?」
「それはマズイですね?」
「めっちゃ痒いんですよ」
「え、どこどこ」
「鼻の右横……目頭のちょっと下らへん」
「ここ?」
ポリポリ。
先生が指先で掻いてくれる。
手袋越しのそれは求めているポリポリではないが、効果はありそうだ。
「もうちょい下……」
「ここか!」
「そこ~!」
「よーし」
ポリポリ。
先生、発語してた「ポリポリ」。
ちょっと和んだし、痒いのもおさまった。
初っ端からなんだかすみません。
片瞼だけの手術なので、反対側の瞼の二重幅を測り印をつけていく。
左右差ゼロは無理な話だけど、それでも極力近づけたい。
しかしそのあたりでもう、やだなー、やだなー、が餅を揚げたときみたいな勢いでブワッと広がり8割ほどに達する。急激に膨らむ恐怖。
でも今回は前のようにピーピー言わない。私は大人だから。
前回も大人だったが。
そして局所麻酔。
細い針で瞼に何箇所かプスッと入れる。
やだなー、やだなー、が9割まできた。
最初の2~3発はチクッとくるのが怖いんだけど、麻酔が効くのも早いし以降は慣れる。
麻酔など序章ですらない。なのに、すでにもうやだなー9割。
「よーし、じゃあ始めますね。メスください」
メスください、早いな!?
やだなーMAXを超えて、私は固まった。
そういえば好きな曲とかなにも持ち込まなかったんだけど、コブクロの何かが聞こえていた。
「下り坂~~~~」みたいな歌詞が耳に入ってきて、まるで私の心情のようだった。
意識を逸らそうと必死でいいお声に耳を傾けたが、覚えているのが「下り坂」だけというビビり具合だった。
麻酔のおかげで痛みはもちろんないのだけど、スキンフックという器具で瞼をぺろんと吊り上げられると、目を閉じていてもライトがより明るく見える。気がする。
切開して皮膚をめくっているから、物理的に瞼がいつもより薄い。はず。知らんけど。見てないから知らんけど、イメージとして。
引っ張られている感じがあって、それがちょっと怖い。
よし、怖いからいっそこのまま寝てしまおう、と思っても寝られるわけもなく。基本的に痛みに弱いしビビりなので、力んでもいた。
痛くなくても怖いものは怖い。怖がるような手術ではないのに。
途中、ただただ怖がるということに疲れてしまって、先生にお喋りリクエストをした。もっと早くすればよかった。
「いいよいいよ~」と応じてくれた。
開始前のポリポリのくだりでもう、そう返してくれるだろうこともわかっていた。これは先生の包容力だろう。
もし先生とコミュニケーションが取れていなかったら、私はじっとひとりで耐えていたかもしれない。言えてよかった。
さっきまで縮こまっていたのに、突如としてペラペラしゃべり出す私。
とりあえずせっかくのいい取材チャンスを逃してたまるかと、外科医あるあるをテーマに楽しく話していただいた。
研修中の先生も、助手としてフックを持ったり縫合の糸を切ったりしながら研修医あるあるを教えてくれた。
いつか必ずシナリオに役立てます。ありがとう。
まさか手術室に自分の笑い声を響かせることになるとは思わなかった。
そんなこんなでおしゃべりしながら、途中3回くらい鏡で二重チェックをした。一番気になっていた目頭のあたりの幅が改善されそうな気配はあって、少しばかりほっとした。
ここから仕上げて、冷やして、腫れて、抜糸して、腫れが引くまで実際どうなるのかは誰にもわからない。眼瞼下垂の手術が厄介なのはそこにあると思う。
私の場合、1回目のときは夜中冷やしてもらった効果もあってか、さほど腫れなかった。一般的に2回目以降はよく腫れ、それが長引くらしい。
無事に終わって、看護師さんが迎えにきてくれるまでの数分も先生方におしゃべりに付き合っていただいた。
この時点で体感1時間。
……のはずが、病室に戻ると準備や待機の時間を除いた手術時間は25分程度だったのではないかと予測ができた。長くても30分。
うそだろ……となった。
恐怖というのは、時間を長くさせるらしい。
これがたぶん同じ顔でも唇とかだったら、ここまで怖さを覚えないのかもしれない。目の上に瞼があるわけで、しかも皮膚が薄いからこそのものなのではないか。
とはいえ、平気な人は平気。私がビビりなだけで。
そこからは看護師さんが絶えず氷を用意してくれて、とにかく冷やした。
両目だと冷やしている間は本当になにもできないだろうけど、私は片目だけだったのでここぞとばかりにあれこれドラマを観て過ごし、上げ膳据え膳で寝落ちした。
というので、1回目よりは少し余裕のある手術体験となった。
が、できればもうやりたくない。これが最後にしたい。
どうか、どうかいい具合に落ち着いてくれ私の瞼よ……と願っている。
翌日。帰宅してPCを開こうとしたら顔認証に応じてもらえなかった程度には腫れた。iPhoneは大丈夫だったのに。
次回はたぶん、抜糸編の記録になると思う。
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