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「臨床検査技師のための情報収集ツールが少ない」は本当か?

こんにちは。

臨床検査業界に特化したデジタルプラットフォームを提供する4MS合同会社の創業者・代表の中村です。

弊社が提供する「4MS Platform」には、臨床検査技師の情報収集を効率化する医療ポータルサイトがあります。
前回の記事では、このポータルサイトを紹介する記事を書きました。

この記事でも紹介しましたが、日本臨床衛生検査技師会の令和5年度調査によれば、約4割の施設が「情報収集のためのツールが少なく医療情勢等に関する情報を十分に入手できていない」と回答しています。一方で、半数以上は「日頃から情報を入手している」とも回答しています。

出所:「一般社団法人日本臨床衛生検査技師会 令和5年度日臨技施設実態調査並びに会員意識調査報告書」より筆者作成

果たして「臨床検査技師のための情報収集ツールが少ない」は本当なのでしょうか?

この調査結果を詳しく分析すると、「情報ツールは存在するが、何らかの理由で効果的に活用できていない施設と、十分に活用できている施設の差がある」という実態が見えてきます。

本記事では、調査データを基に情報の発信者と情報の受け手の両方の観点を踏まえて、臨床検査技師の情報収集の実態と課題を考察します。


情報収集の三つの障壁

1. 情報発信者側の課題

一般的に、臨床検査技師を対象に情報提供をするのは臨床検査に関連する企業・団体などの業界関係者です。調査結果を見ると、機器・試薬メーカーからの情報(2,387施設)日臨技からの情報(2,333施設)が主要な情報源となっています。

出所:「一般社団法人日本臨床衛生検査技師会 令和5年度日臨技施設実態調査並びに会員意識調査報告書」より筆者作成

こうした情報発信主体は独自の情報提供チャネルを持っていますが、従来のチャネル(紙媒体や対面での説明会など)が現代のデジタル環境に十分適応できていないケースがあります。
またチャネルという点に関して、医療系メディアを通じた情報発信も、そのメディアの利用者に臨床検査技師が少ないケースでは効果が限定的となります。

このアンケート結果からも、医療情報サイト(1,136施設)からの情報収集は、メーカーや日臨技からの情報収集に比べて活用度が低いことがわかります。これを踏まえて次に臨床検査技師側の課題も考えてみましょう。

2. 臨床検査技師側の課題

アンケート結果からは、同じような条件下にある臨床検査技師でも情報収集の実態に差があることが示唆されます。例えば、情報ツールが少ないと感じている技師の中にも、実は既存の情報源(例:MTJメールニュース)を活用していない方は多いのではないでしょうか。

MTJメールニュースは臨床検査業界の最新情報を定期的に配信しており、多くの検査技師にとって有用な情報源となり得ますが、登録者数はまだ限定的です。

また、4MS Platform内でのアンケートによると、臨床検査技師が情報収集に活用するサードパーティ・メディアとして、エムスリーや日経メディカル、ケアネットが多く回答されていました。

これらの結果から、情報収集における個人差は、情報リテラシーの違いや、業務外での学習・情報収集への意欲の差に起因する部分もあると考えられます。

3. 環境的な課題

医療系メディアは数多く存在するものの、臨床検査技師向けの専門的コンテンツは限定的です。

また、一部の医療情報プラットフォームでは、医師・薬剤師向けの会員制度はあっても、臨床検査技師などの他の医療職種は会員登録ができないという制限もあります。これが調査結果で医療情報サイトの活用度が低い一因と考えられます。

さらに、検査機器・試薬メーカーによる情報提供も、調査結果から最も重要な情報源であることが明らかですが、医療機関の規模や取引関係によって情報提供の量と質、頻度に差があることも事実です。例えば、大学病院や大規模病院では企業からの情報提供が充実している一方、中小規模の施設では限定的になる傾向があります。

コンテンツ過多時代の本質的な問題

これら3つの障壁を考えると、情報発信者と情報の受け手双方に改善の余地がある一方で、環境的要因を短期間で変えることは困難です。

また、現代の情報環境には別の課題もあります。特にウェブ上では、コンテンツが多すぎて、自分が本当に欲しい情報にアクセスできないという問題が深刻化しています。臨床検査技師が現場で知っておくべき情報を認知していないケースには、情報そのものが存在しないのではなく、その情報が膨大な情報の海に埋もれて認知・理解されにくくなっている可能性があります。

問題は情報の量ではなく、情報へのアクセス性や整理の問題が大きいこと。

「情報ツールが少ない」問題の本質

まとめると「臨床検査技師のための情報収集ツールが少ない」という問題の本質は、以下の3点にあると考えます。

  1. 情報ツールは存在するが、使いやすさや認知度に課題がある

  2. 既存の情報源が分散しており、効率的に情報収集できる統合的なプラットフォームが限られている

  3. 臨床検査技師向けに特化した専門的コンテンツが他の医療職種と比較して少ない

つまり、「ツールの数」自体よりも、「効率的に必要な情報にアクセスできる環境」が不足しているというのが実態といえるでしょう。

これからの情報収集のあり方

変化の激しい近年の医療環境において、情報収集の課題を放置しておくことは、臨床検査技師にとって極めて大きなリスクと言えます。必要なのは単に「ツールの数を増やす」ことではなく、「効率的に必要な情報にアクセスできる環境」を整えることです。

  • 既存の情報源(MTJメールニュースなど)の認知度向上と利用促進

  • 臨床検査技師向けの情報を集約した専門ポータルサイトの活用

  • 検査室内外での情報共有の仕組み作りと活性化

  • 業界団体や企業による情報発信方法の見直し(デジタル化推進)

次回は「コンテンツ飽和時代の情報収集戦略 カギは情報の集約」と題して、これらの解決策についてより具体的に考察します。

共感いただける方や思うところがある方は、お気軽に「スキ」やコメントにてご意見をください。

とりあえず、まだMTJメールニュースに登録していない方は、今すぐ登録してみてはいかがでしょうか。


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