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乳がんになって入院手術した話-3(入院と手術編)

乳がんになって入院手術した話-2(覚悟と仕事の調整編)の続きです。

2020年10月12日 / 入院前日
いよいよ明日は入院。だけど仕事が色々と終わらない。海外旅行の当日飛行機乗るまでメールを打ち返してるような現象に。夫は「入院の準備は大丈夫?明日一緒に病院行けなくてごめんね。何か手伝えることあるかな...?」と言ってくれるが、私は何が終わってないかわからない状態なので、「ひとりでニューヨーク行ったことあるから、明日は近所なので大丈夫」と訳のわからない返事。病院に行く時間はこの日に電話できた。午後13時くらいと聞いていたけれど、午前10時に行くことに。準備ギリギリだ。

2020年10月13日 / 入院する日
荷物を詰め込みタクシーで行く。仕事は色々終わってない。病室は4人部屋だけど、限りなく個室で、静か。服を病院着に着替えて、何の具合も悪くないのに椅子からベッドに変えるのが何だか申し訳ないのと照れ臭い。

この日は、まずセンチネルリンパ節のレントゲン撮影を行った。脇のリンパに転移の様子をレントゲン撮影する。イージーモードで向かった。しかし、リンパを見やすくするための造影剤の注射が今までの人生で一番痛かった。針を刺したあとに、ゆっくり銃で撃たれるような火傷のような熱さと痛さが10秒。「ちょっ... これは...痛い、痛いヨォ〜〜〜〜!」と10秒叫んだ。思わぬところに困難が転がってた。

レントゲンの帰り道で、指示を受けてる買い物をする。術後着用する下着。ワコールの前開きのブラジャー。肩紐が太くて、腕まわりが優しい。でもホールドがしっかりなされる。そして重要なのが、前開きであること。術後に傷の確認をする時に、前開きじゃないと、脱ぎ着が痛いし、時間はかかるし大変。

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病室に帰ると、看護師さん、掃除の係の人、乳腺科の先生、形成の先生、麻酔の先生、様々な人が明日の手術の確認に訪れる。病室は休む場所というよりは、病気を直すプロジェクトメンバーが打ち合わせするオフィスのような感じだった。白い巨塔で見た医者と患者の関係の印象強かったので、治す人、治される人。という関係ではなく、フラットなチームメンバーのような雰囲気が凄くよかった。

体のどこを切るか、マーキング。形成と乳腺科のお医者さんたちの真剣な眼差しはオートクチュールを作るデザイナーのような目。凄く信頼できる。こう言った作業の瞬間にストレスを感じたくないので、信頼できるお医者さんのいる病院を選ぶことは本当に重要と思った。プロッキーで体に色々な印をつける。

食事は夜まで通常食。

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毎日好きなもの食べてた生活だったので病院食が少なく感じて、昼ごはんと夜ご飯の間に病院のコンビニでこっそり唐揚げを買って食べてしまった。移動の時には点滴がついてた。中身は元気なんだけど、そのギャップがなんだか面白い。

ギリギリまで、スマホで色々とメールで仕事。社会的な繋がりのロープをひとつひとつ手放すような作業だった。仕事を止めることは卒業してから初めての体験だったので、私にとっては全身麻酔よりも、この作業の方が臨死体験、仮死体験のような感じがした。

2020年10月14日 / 手術当日
何も食べられない日。手術は15時からの予定だけど、早まるかもしれないので、早めに準備して待機。ソワソワするので、こち亀を読む。こち亀は脳内が思考停止するので、ちょうど良い。

時間通りに手術の順番がやってきた。歩いて手術室まで行く。立会人のしゅんくんは、万が一の時にどういう判断かをするために、手術が終わるまで病院で待機してもらう役目で来てくれてる。本当はたくさん話したいけど、コロナ予防対策のために、手術室に行く一瞬の間だけ会える。ドラマチックな感じになるかと思ったけど、空気がカジュアル過ぎたので、立ち上がり行く時に私は「じゃお疲れー」と彼に言った。看護師さんがツボだったのか爆笑してた。

歩いて手術室に向かう。みんなが今日の自分の役割と名前を挨拶してくる。なんか、すごく仕事の始まりっぽくて、私はいいなと思う。私も患者として役割を頑張ろうと思い、手術台に座る。手術室は少し寒いけど、手術台は電気毛布でふわふわ暖かい。寒い日のコタツのよう。

昔の外科手術は麻酔も無く、消毒の概念も無く、痛くて苦しいものだったと思うと、科学の積み重ねに感謝だ。生まれた時代が2020だっただけで、これから起きるあらゆる危険と苦痛を全部スキップできるなんて凄すぎる...と科学の歴史に想いを馳せてたら、意識は途切れた。

全身麻酔から覚める瞬間は、漫画とドラマのよう。「し、みずさん...清水さん...聞こえますかー?」そして天井。苦痛は一切なく、「あれ?コタツで寝ちゃってた?」みたいな幸せなテンションのまま病室まで運ばれる。意識が曖昧なままに服を着せてもらったり、点滴や、尿道カテーテルや、一通りお世話してもらったようだけど、うたた寝なので恥ずかしさはなかった。

そのあとしゅんくんが一瞬だけ病室に来てくれた。あいまいで何か話したけどあまり覚えてないけど、私は帰ってしまうことが寂しくて咄嗟に出た言葉が「面白ラジオがもう帰っちゃう...」面白ラジオってなんだ。しゅんくんはそれを凄く喜んでいたと後で聞いた。

その後心地いいうたた寝コタツタイムは終わり、意外と目が冴えて暇で元気だった。酸素が取れたあと、21時にはスマホを取って家族に連絡をしてた。傷よりも、水は飲めるけど、朝まで食べられないのが一番辛かった夜。

2020年10月15日 / 術後1日目
朝6時にお腹すいて起きる。しかし食事は朝8時。この2時間が辛過ぎた...。
尿道カテーテルと点滴が取れて、自分でトイレに行ってよくなり、朝ごはんを食べると、ただの白い食パンが美味し過ぎて最高だった。ご飯を食べるとリハビリ。手を上げたり下げたりする動き。結構できた。でも無理しない。

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昨日の夜眠れなかった分、昼まで寝て、お昼ご飯を食べたら、大体は歩けるくらいに回復できた。歩いてコンビニまでいき、フルーツを買って食べた。本当はお見舞いの楽しみがあるはずだったけど、コロナで面会は全部禁止。

1日に何度か、傷口の確認で形成の先生、乳腺科の先生、看護師さんがやってくる。私は怖くて直視できないのだけど、みんな「うん、きれいですね、大丈夫ですね」と言って去っていく。この言葉が心強い。「問題なし」ではなく、「きれいですね」という言葉。中で出血してないか、異常はないか、色々な意味を含みつつ、美しいという感覚的な空気を纏った今の私にとって一番優しい言葉。

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夕方に、作品を出品しているトランスレーションズ展のオープニングイベントがあった。乳がんのことは一部の仕事仲間以外には言ってないので、シャバにいる風のままSNSでオープニングの告知をした。本物の私は入院をしているのに、SNSの私が快活に活動してる。死後の世界を見てるような不思議な感じだった。体と意識がバラバラに活動してるような感じ。

▼展覧会のフライヤー、クリックすると情報見れます▼

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▼病室からスマホで書いたステートメント文▼

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2020年10月16日 / 術後2日目
術後初めて、お風呂で傷口をみる。普通に糸の色が肌にある感じが怖いので薄目で見ながら、さっさと済ます。

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乳腺科の主治医と研修医の回診。いわゆる教授回診的な感じだったのかな。白い巨塔のイメージと違って、全員女性で、なにかのPVかと思うくらいにスタイリッシュでスマートで安心の時間だった。乳腺科の先生は女性が多いらしい。きっと他の科では男性が主体の態度が多いのかもしれないけど、今回の入院では擬似的に女性が男性と同じくらい中心となった病院の姿をイメージさせてもらった感じ。まだまだ色々難しいのかもしれないけど応援したい。

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コンビニへリハビリ。モンブランを食べる。入院してるのに何かおやつ食べるの罪悪感だなぁ〜と思ってたら、ポテトチップとチョコを嬉しそうに買ってる入院中のおじさんがいて、まいっかと思った。

この日から寝返りもOKと言われる。痛みを少し感じる以外は、ほとんど元気な感じ。でも自分じゃ気がついてないダメージがあるだろうからまだ入院は必要なのだろう。

▼この時読んだ本▼

元SKE48の矢方美紀さんの飼い猫の視点で描かれる乳がん体験記。手術で左胸を全摘し、治療を続けながら声優を目指す現在進行形のストーリー。

病気になって色々知りたい気持ちはあるけれど、刺激の強い情報や偏った情報が入りすぎると辛い。そういう時に一個人の病気の体験を綴ったコミックエッセイは本当に頼りになった。矢方さんの物語と静かにおしゃべりするような気持ち。

2020年10月17日 / 術後3日目
すごい眠気。ずっと寝てる。午後にお風呂へ。少しづつ傷にも慣れてきた。お風呂に大きな鏡がないのは病院の優しさかもしれない。落ち着いて入ることができた。目で見るのは怖いけど、手で触るのは怖くない。手で変わらない感触を確かめつつ、変わった部分を確認する。視覚ではなく、触覚で少しづつ新しいカタチを受け入れる作業をしていた。

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少しづつ社会に気持ちがむいて来て、病院中のことを振り返るメモを描いた。この日は雨で写真を取ったり、水筒にお茶を入れたり、小さいことだけど、退院に向けて、病気以外のことを考えられるようになった。

夜のデイルームでは、入院患者さんたちがみんなテレビ電話している。年齢も様々で、子供や、夫や、友達に電話している。今日は何を食べたの?明日は何をするの? 愛おしい眼差しでスマホの画面を見つめながら、会話をしている。私は明日に退院だけど、まだ先が見えない治療を行ってる人もこのフロアにはたくさんいる。日常にいると知らない世界。こういった世界を日常として生きてる人。その世界を支えてる仕事の人。知ってるつもりで、知らなかったことがたくさんある。

深夜、あまり寝られずうとうとしてたら、突然子供の泣き声のようなものが聞こえて目が覚める。目が覚めると何もなく静かな病院。一瞬お化けのようなものに感じて怖くなるけど、冷静に頭内爆発音症候群のような現象だと考え、ナースコールはしない。頑張って寝る。

2020年10月18日 / 退院
退院。ホテルを出るような気持ち。着替えて荷物をまとめる。
しゅんくんが迎えに来てくれてる。
帰りに大きな公園によって散歩して帰った。

これで終わりだといいのだけど、非浸潤ガンであることは、針で取った細胞の一部からしか断定できないので、手術後に取った部分を病理で細胞を目視する。その分析から今後どんな治療が必要か計画を立てていく。

浸潤ガンが見つからなければ、もしかしたら放射線治療もなしで、一年ごとに検査でオーケー。もし浸潤ガンが見つかれば、ホルモン薬投与なども必要になるかも。とのこと。

手術をして完治と言うより、手術が一つの検査のような意味合いがありそう。いずれにせよ、10年は経過観察が必要なので、これから毎年乳がん検診を受けていこうと思う。

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つづく


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