6/21 「写真家の個展で、1万1000円の鈍器を買う」
PM 4:00
僕には大好きな写真家がいます。
その方の名前は「奥山由之」さんです。
彼は、写真だけでなく、映像作品の監督も務められるマルチプレイヤーで、主だった活動を紹介すると、例えば写真でいうとOKAMOTO'S・never young beachなどのアーティスト写真及びジャケットを手がけたり、映像作品だと米津玄師さんのKICK BACKのMVの監督を務めたりで、ポップカルチャーを語る上で外せない人物の一人です。
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カネコアヤノのロマンス宣言のMVもやってます。
そんな奥山由之さんが今回約4年を経て、開催した個展が「windows」です。
今回のモチーフはタイトル通り「窓」です。
多くのクライアントワークを抱える中、奥山さんが約2年半かけ、コロナ禍中の東京の住宅の窓(中が不透明なものだけ)を10万枚程度撮り、選別された作品が会場に展示されていました。
会場であるamanaTIGPの扉を開けると、そこには窓が飾られていました。会場自体には窓がひとつもないのに、窓がある。
まず、僕はこの空間に不思議さを感じました。
受付に記名を済ませ、観覧を始めると気づいたのはどの作品も枠の大きさがバラバラということです。
一般的に考えれば、主役は作品自体であるため、大きさはある程度統一させてメインだけは大きくし、そのギャップで鑑賞者の興味を引くものですが、「windows」はひとつとして同じ大きさの作品がありません。
ですが、その演出が全くノイズにならない。
それはきっと飾られているのが「窓」だからなんだと思います。
ひとりとして同じ人間がいないように、営みもひとつとして同じではない。そういったメッセージがサイズ選びに感じられ、並々ならぬ拘りを感じました。
次に思ったのは、ただの窓なのに肖像画のように感じてしまう不思議さです。
写真集の巻頭で奥山さんは、アメリカの建築物の窓と日本住宅の窓には違いがあると書かれていました。
それは、日本の方が中が見えないように作られた窓が多いということです。
何故ならば、海外の人々に比べ、日本人は対人関係を重んじる傾向があるからです。
そういった理由で、会場に飾られた作品群はどれも磨りガラスの乱反射により、家の中が不透明に見えるようになっています。
その効果が、写真をどれも抽象的な絵画のように見えさせ、鑑賞者は窓の奥で営まれている生活を自ずと考えてしまう作りになっています。
ただ眺めるのではなく、その奥を想像する。その行為まで誘導させる求心力がどの作品にもあり、鑑賞を続けているうちに僕は「窓って、こんなにも人々の営みを表しているものなんだ」と思いました。
こんな機会が無い限り、人の家の窓などじっくり見ません。それ故に気づかなかったのですが、こんなにも生活の肖像を体現している存在ってないんです。
これは窓という存在に備わった魅力で、そんな発見をくれた奥山さんには感謝しかないです。
多くの気づきを与えてくれた鑑賞時間が終了し、僕は会場奥にあるテーブルに向かいました。
そこには個展内に到底収まりきらない作品が乗せられた今回の作品集と、亡き祖母を花をモチーフにして描く前回の作品集「flowers」があり、会場に飾られた作品の購入価格が載せられたリストがありました。
そのリストを見た時、僕はふと自分の部屋に作品を飾ったらどうなるのかなと考え、思ったことがありました。
家に、窓を「飾る」ってやったことないな。
そうなんです。
この写真は作品でありながら、やはり窓なんです。
窓の奥には生活者の気配があり、飾っているだけでなんとなくその奥の住人と共同生活しているように錯覚してしまう。
それもきっと狙いのひとつなんだろうなと思い、僕は会場にいたスタッフの方に尋ねてみました。
すると、奥山さんも全く同じことを仰っていたようで、烏滸がましいですが、僕は一時でも奥山さんの思考に同期できたことに喜びを感じました。
正直、今日イチで昂りしました。
それから僕は会場のスタッフの方と作品について質問したり、談笑したりして、最後にwindowsの作品集を購入しました。
分厚過ぎます。
置けば、当然のように直立し、有事の際は鈍器としての機能も果たせそうな作品集「windows」。
早速、自宅に帰りページを捲りましたが当然すぐには見きれず、写真集なのに栞を挟むという稀な行いをしながら、じっくり見ていってます。
労働の対価として十二分すぎる発見をくれ、本当に購入してよかったと思いました。
奥山由之、最高です。
敬愛している方のため、今回はなんとなくふざけたトーンで書けず、ナレータみたいなしっとりとしたトーンになってしまいました。
会期は7月8日までです。
ちなみに、休廊日は日曜日と月曜日と祝日だそうです。そして入場料は無料。
まだ、間に合います。
ぜひ、行ってみてください。
おしまい
奥山さんを初めて知った作品
奥山由之 / BACON ICE CREAM
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