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いくつかに切り取って「見る」ことで「生き生き」とする話

BLUEGOATS『フィルムカメラ』の感想を、とある人の「生き生き」で語らせたいというお話。

とある人のはなし①

とある人がそこにあった。
いつから生じたのかについて、分かるモノはこの世にはいなかった。
当人にも自覚はなかった。

しかしながら、いつ滅するのかについてのみ、明確に知り得ていた。
ただ、それがどのような事象によってなされるかは、完全には理解できずにいた。

それは、全く存知の外にあったというわけではない。
いくつかの「ありうる類型」だけは、持ち得ていた。

とある人のはなし②

とある人は、いつからか自分の生を主体的に全うしようと思い始めた。
それまでは、流れゆく時間の波に漂うことが、「生じたことの意味」だと皮膚感覚で把握していた。

なぜ変わったのか。
とある人は、それすらも分からなかった。
消え行くことについての「いくつかの類型」だけを懐にしまい、この世を揺蕩っていた。

とある人は考えた。
「思考の仕方」を知る術はなかったが、無意識の先にある理によってそれはなされたのだろうか。
とある人は自身の有り様を描こうとした。

それは、夢を見ていただけなのかもしれない。
それは、実際にそう歩んだのかもしれない。

でも、そのことを正しく捉えることが出来る存在は、この世にはいない。
それは寂しいことなのだろうか。
それは侘しいことなのだろうか。
それは嬉しいことなのだろうか。

とある人は、そのことを知ることができない。

とある男のはなし①

とある人は、男でもあった。
その世における「平均値的」な生を行使していた。

とある男は驚きとともに知った。
「平均であること」は、つまらないという感情を生むことを。
零から負が生まれることの異常さに戦慄した。

とある男は、平均から逸脱しようともがき始める。
そこで生まれた波飛沫は、因果の構造を優しく濡らし、一筋の道となる。

とある男のはなし②

とある男は、初めて自らが切り拓いた道を進む。

足下を見たことなど、一度たりともなかった。
「決められたレールの上を・・・」という話ではない。
「ある」とも「ない」とも考えない、そんな存在のみが流れる川を漂っていた。

自分で踏みしめた「意志の大地」は、これほど自身の存在を自覚させるのか。
自分が創造した「初めて」は、この「生き生き」とした足跡なのだろう。
蠱惑的な感覚を、赤子を抱くかのように大切に包みながら、とある男は平均を外れる。

とある男のはなし③

そして

とある男は、光と出会う。

「光」というモノは知っていた。
この時空間に「ある」だけの状態でも、それは認識できていた。
何かを「見え」るようにする存在。
「見えない」を消してくれる存在。

とある男にとって、「光」とはそれだけであった。
そこに「価値」が介在する余地もなく。

ただ

この「光」は不思議だった。

遠くから見ているときは、その周囲すべてを輝かせていた。
周囲の存在は、一定の「暖かみ」を放っていた。
「光」はいつも、それら存在の前で、幻想的に揺れていた。

そのとき初めて、「音色」を聴いた気がする。
「光」が揺れるとき、それは常に流れていた。
そして、周囲の存在は、その「暖かみ」を強くする。

この「光」は不思議だった。

とある男が近寄ったときは、自分だけが照らされるのであった。
そして、初めて「暖かみ」を自己の内で実感した。

「光」と自分
世界はそれだけでできていると直観した。
そして、自身の「暖かみ」はより強くなった。

遠くではすべてを照らし、近くでは自分だけ照らす。
不思議な「光」。

「暖かみ」をもたらす、ふしぎな「光」。

その「暖かみ」が「幸せ」だと、とある男が知ることはできたのだろうか。

とある箱のはなし

とある人は、箱でもあった。

空間を切り取ることが仕事。
「外」と「内」を創ることが仕事。
「空」と「家」をつくることが仕事。

とある箱は、それなりに大きかった。
それなりというのは、人がいくらか入るというくらいにおいて。

とある箱には、人がよく出入りしていた。

それらは、ときに「暖かみ」を放つことがあった。
その「暖かみ」の中心には、いつも「光」があった。

とある箱の中を、不思議なリズムと振動が満ちることがあった。
そのとき、「光」はより大きく輝き、「暖かみ」もそれに比例する。

とある箱は、それが好きだった。

箱は、空間を切り取ることが仕事。
とある箱は、それをいつまでも、いつまでも、抱いていたかった。

「満ち足りる」
とある箱は、その概念を占有できたのだろうか。

とある流星のはなし

とある人は、流星でもあった。

流れるだけ。
右から左へと。

流れるだけ。
前から後ろへと。

光るだけ。
意味など分からずに。

燃えるだけ。
それが悲しみなのか怒りなのかも理解できずに。

過ごすだけ。
人からすれば永遠に思えるほどの長さを。

でも

とある流星は、一つだけ知っている。
ただひたすらに不思議な「光」があることを。

炎の幾万分の一の熱さしかないのに、無尽蔵の原動力を備えるような。
そんな「暖かみ」を与える「光」があることを。

とある流星は

いつかそんな「光」になることだけを夢に見て。

とある時のはなし

とある人は、時でもあった。

とある時は、我儘だった。
「ある」とされるものはすべてを掴んでいたかった。
どこに向かっても、どんな速さでも、どんな重さでも。
とある時は、無秩序のようで完璧主義者だった。

我儘は大喰らい。
生も死もその流れの中に巻き込んで。

でも

とある時は、止まれない。
とある時は、時だから。
そういう契約をいつかなしたのだろう。

いや、いつかなすのだろうか。

とある時は、不幸せ。
それはとある時だから。

それでも

とある時には、止めたい瞬間を見つける瞬間もあって。
「光」と「暖かみ」が混ざり合う、その時。

でもとある時は、止まれない。
とある時は、「切り取り」たいと切に願う。

でもそれはとても難しいはなし。

だって、とある時が「死ぬ」しかないのだから。

とある女のはなし①

とある人は、女でもあった。

とある女は、踊る。
とある女は、舞う。
とある女は、叫ぶ。
とある女は、哭く。
とある女は、笑う。
とある女は、描く。
とある女は、響く。
とある女は、よく光る。

とある女のはなし②

とある女は、自分が「光」であることを願っていた。

「光」であることが、喜びになりますように。
「光」であることが、嘆きになりますように。
「光」であることが、過去になりますように。
「光」であることが、未来になりますように。
「光」であることが、生業になりますように。
「光」であることが、使命になりますように。

とある女は、そう祈りながら舞い踊る。
とある女は、そう祈りながら謳い笑う。

そうやって

とある女は、「暖かみ」を生み出していた。
とある女は、「始まり」だった。

とある男のはなし④

とある男は、暖かい。
とある男は、暖かい。
とある男は、暖かい。

とある男は、満ち足りたのだ。

とある男の話は、これでおしまい。

とある女のはなし③

とある女は、暖かい?
とある女は、暖かい?
とある女は、暖かい?

とある女は、「光」だけれど。

自分が「暖かい」のかは、知りえないのだ。

だからとある女は。

踊る
歌う

そして、光る。

とある女は、そうやって、いつも足りないのだ。

だから、願う。
だから、祈る。
だから、泣く。

それこそが、とある女の「生き生き」だから。

とある女の話は、これでおしまい。

とあるはなし

とあるはなしがあったそうだ。

始まりもなくて
終わりもなくて

だからすべてが箱の中。
だからすべてが時の中。

それは

切り取られた、「男」と「女」のはなし。

それは

切り取られた、「光」と「暖かみ」のはなし。


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