あだち充にハマる
あだち充にハマった。何回目だろうか。
前回、あだち充が(自分の中で)ブレイクしたのは小学生の時だったか。「クロスゲーム」と「タッチ」を読んだ。
「タッチ」は言わずと知れたあだち充の看板作品であり、青春野球漫画の金字塔。個人的には「クロスゲーム」の方が好きだったが。
その後、タッチの続編的な性格も持つ「MIX」もしっかり新刊を追い続けた。
しばらくブランクが空いた。「MIX」の発刊ペースが落ちたのもある。僕の中であだち充は再びブレイクした。「H2」という作品で。
あだち充最高の野球漫画「H2」
「H2」を読み終えて、この感は強くなった。あだち充が書いた最高の野球漫画は「H2」だ。
充実した野球描写
「H2」が他のあだち作品と比べて特異な点は、やはり2ヒーロー2ヒロインのシステムであろう。
「タッチ」や「クロスゲーム」における恋愛模様は基本的にヒーローとヒロインの1:1の軸で進んでいく。いずれも2人の近親者の死が作品のターニングポイントであり、その死を乗り越えた2人の関係性の変化こそが肝とも言える。
対する「H2」は4人による四角関係の展開が描かれ、最後まで誰が誰の元に収まるのかは分からない。
恋愛模様を決定するのは比呂と英雄の直接対決で、物語はその2人の対決に全てが集約される。
恋愛が野球の勝負と切っても切り離せないため、野球の描写も当然ぬかりない。
物語のラストは難解だ。その意味は多くを語らないあだち作品の中でも特に寡黙で、示唆的である。色々な解釈があるが、中でもこれはしっくりくる。
あだち充による最高のラブコメ「ラフ」
「H2」の感動冷めやらぬ内に手を付けたのが「ラフ」である。高校水泳を舞台にしたラブコメで、ラブコメとしてのクオリティはあだち充屈指なのではないかと思う。
最高のラストシーン
主人公の大和圭介とヒロインの二宮亜美は共に和菓子店を実家に持ち、それぞれの和菓子店は互いを強烈にライバル視してる。2人の出自が禁忌のラブコメという側面を打ち出しており、2人がどんどん惹かれ合っていく様は胸踊る。
全34巻のボリュームが満足感をもたらした「H2」とは異なり、「ラフ」は全12巻と非常にコンパクトであり、まとまり方が非常に綺麗である。
その極致とも言えるのが、ヒロインの亜美が誰を選ぶのかが判明するラストシーンだ。この描写の洒落っぷりは筆舌に尽くしがたい。これほどのラストシーンを目の当たりにしたこともなければ、これからお目にかかることもないであろう。
あだち作品に共通する魅力
多くを語らない描写
あだち作品の魅力はずば抜けた描写にある。セリフに頼って展開するということはほとんどない。代わりにセリフのない、絵だけのコマを多用して読者に筋書きを伝えていく。
作者が落語好きということもあって、あだち作品には落語のエッセンスを感じることが多い。
言葉を駆使する落語を言葉に依らないあだち充のコマ割りと比較するのは矛盾しているように思えるが、読者の想像を掻き立てるという点などは非常に”落語的な描写”なのではないかと思っている。
多くを語らない主人公
これもまた素晴らしい点である。あだち作品の主人公は多くを語らない。ほとんどの作品に共通して、あだち作品の主人公は一見軽薄で、ひょうひょうとして感情を表に出さず、そして常に底知れない不気味なポテンシャルを秘めている。
そしてラブコメ部分の結末で初めてと言っていいほどの感情を露わにして思いを伝えるのだ。この力の抜けた感じは多くの男子にウケが良いことと思う。