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86. もうひとつだから

昨年からの武漢五六七の影響により、今期、ようやくシリーズ2が放映されているドラマ<監察医 朝顔>には東日本大震災がベースにあり、ドラマ制作の意図はさておき、あの人工地震と巨大津波を様々なカタチで体験した者なら何かしらの投影をせずに観ることはできないだろうドラマだと思う。

あの日、わたしは母と浅草の喫茶店にいた。
ドーン!という衝撃の後、巨人がシャカシャカと振っているマッチ箱の中にいるかのような大きな揺れの中で

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というココロを聴いた。お若い女性スタッフの次にわたしが若いくらい平均年齢が高い店内は、叫び声こそ聞かれなかったものの、見知らぬお爺ちゃんお婆ちゃん全員が小さなテーブルの下に潜り込みつつ発する恐怖と混乱と緊張はかなりのもので、咄嗟にその場で自分が出来ることをした。
当時は、日夲嫌いの政府が日夲と日夲人を世界から消そうとしていることなんて知りもしなかったから何故こんなココロの声がするのか考えもしなかったけど今となっては疑う余地など皆無。
普段は氣丈な母が、まるで夢ではないことを確認するかのように「あなたが一緒の時で良かった。」と度々もらしている姿に激しく動揺していることが伺えた。

揺れが落ち着いて大通りに出ると眞空を思わせるような一帯の異様な静けさの中で歩道にあふれかえる人々と対照的に車が走っていない異常な光景が我々の恐怖心を刺激しているように思えた。
何とか我が家に戻りテレビから現地の様子を見て愕然とした。
あの眞っ黒い津波の画がこの世のものとは思えず恐怖と同時に違和感を覚えたのだった。

被害を被った土地も人々の傷もまだ癒えていないとの情報は時々入ってきてはいたものの、モレなく何かしらのエフェクトがかけられているマスコミによる情報は今ひとつピンと来ないままだった一昨年、陸前高田の図書館復興プロジェクトに微力ながら参加していたこともあり、実父の墓参りに青森を訪れた帰りに立ち寄ることにした。

青森から陸前高田まで山の中のひたすら抜けて行き、目的地に近くなるほどに理由の分からない悲しみに襲われ、小刻みに震えるハートの振動がカラダ全体に広がり真夏だというのにガタガタと震えはじめ、悲しみも大きくなり声をあげて泣きたくなるほどだった。

何が起こってる‥?

運転しているパートナーをビビらせないようカラダの震えと、泣き叫びたいのを抑えつつ道路を囲む山々を観ていた時、悲しみの正躰が土地が抱えているものであるという理解がハートに突き刺さるようにやってきて堪え切れずに静かに泣いた。
山の中を抜け、長くゆるい上り坂をしばらく走っていると視界が開けることを無意識に期待をしていたわたしたちの視界に飛び込んできた光景は、そこにあった全てがえぐり取られ更地に整備している重機数台と海岸で、一瞬にしてテレビの向こう側で観たドス黒い津波を目の当たりにしたような感覚に陥ったわたしたちは未だかつて聴いたこともない声を同時にあげた。
この時、再びハートに何かが突き刺さるような感覚を覚え、言葉では語り尽くせない大きな痛みと悲しみを被った人、そうでない人も日夲を愛している全ての人々が各々の居る場所で傷を負ったのだと確信した。

分かち合いという知恵を無意識に発動できる者をヒトと呼ぶなら、奪うことに執着し続ける世界の1%は、夲当にヒトではないのかもしれないね?

さて、最新話の<監察医 朝顔>では、母親の実家で独り暮らしの祖父を訪ねた主人公の朝顔と母親がそこで地震に合い、御近所の独り暮らしさんの様子を観に行ったまま行方不明となった母の手がかりとなるものを探すべく、父親は休みの度に母の実家近くの沼へ出かけて水の中を捜索していたが、決定的な判断となるものは見つからない中、祖父が見つけて隠し持っていた歯を調べた所、別人のものであることが判明し、歯の持ち主の家族の元へ返されたが、余命わずかで入院中の祖父には母のものだったと伝えるつもりだったが、結局、嘘はつけず、かといって眞實も伝えられないまま東京に戻って来てしまうのだけど、その際、祖父が「ずっと寂しかった」と夲音を漏らしたことで震災のトラウマで長らく祖父の居る地を訪れることができなかった自分を責めている朝顔を観ていたら「誰も悪くないじゃん‥」と口から飛び出し、「こんなことでも起きないとヒトはひとつになれないのか‥?」と続いた時、完全かつ完璧な球体のイメージが差しこまれ、

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違う‥ ひとつ  過去を観てる‥

と響いた。
ぁぁ、そうだったよね。
もともとがひとつなのに、ひとつに観えないのは<ひとつになるべき>というバグを抱えたまま<ひとつになるために‥>という思考が働くから、いつまでもひとつにならない過去を観ちゃうんだったね。
それこそが訂正箇所だね。

ひとつだったことは無いから
ひとつになろうとしなくていい。


という地点に居るんだったよな。
追い求めるのは過去のなごり、錯覚だったね。



画像提供: DeltaWorks jhovani_serraltaPixabay

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