【栃木SCのアウト・オブ・プレー時の支配率】を試みる
この記事は、森本美行さんの著書『アナリティック・マインド』を読んで、特に「おもしろい!」と感じた、”アウト・オブ・プレーイングタイム”についての感想・雑感を書いていく、読書感想文的なものです。
サッカー × スポーツビジネス × 欧州・日本 × コロナなどについて、データ分析とそれを行う上での客観的視点の重要性を強く実感しました。サッカーやデータに興味がある人は特におすすめです!👇
はじめに
突然ですが、質問です。「サッカーというスポーツにおける試合時間」は何分だと思いますか?
おそらく、「90分」と答えた人が大半だと思います。
では、聞き方を変えまして、「サッカーにおける”プレー”時間」は何分だと思いますか?
ここで「90分」という答えと、そうでない答えとで分かれ始めると思います。
では、再び聞き方を変えまして、「サッカーにおける”プレーイングタイム”」は何分だと思いますか?
これで「90分」の答えはほぼほぼ無くなったんじゃないかと思います。
で、結局コイツは何が言いたいんだ?状態になったところで、本題に入っていきたいと思います。
アクチュアル・プレーイングタイム(APT)
サッカーというスポーツは基本的に「90分+アディショナルタイム」を試合時間とするわけなのですが、その中でも”実際にプレーされた時間”、簡単に言うと”ボールがピッチ内で動いている時間”を「アクチュアル・プレーイングタイム(以下、APT)」と表します。
アクチュアルプレーイングタイム
試合開始から終了までに、実際にプレーされた時間を指す。アウトオブプレーやファウルなどで試合が止まり、セットプレーやスローインなどで試合が再開するまでの時間を差し引いて算出される。 引用:Jリーグ
このAPTは、J1:55分34秒、J2:53分25秒(いずれも2021年度)となっており、
・W杯のアジア予選のアウェイの試合:約45~50分
・2014W杯、準々決勝ブラジルvsコロンビア戦:39分18秒
・2014W杯、準決勝ブラジルvsドイツ戦:62分17秒
という興味深いデータもあります。ブラジルvsコロンビア戦はファウルの応酬となりネイマールが負傷退場、ブラジルvsドイツは1‐7と衝撃的なスコアでドイツが終始圧倒した試合です。
また、2021年のJリーグのAPTは、飲水タイムの導入、交代枠5枚、加えてJ1はVARの導入もあって、プレー外において時間が延びる要素が追加されたことにより、アディショナルタイムが増えたことによる影響もあります。
APTとボール支配率
そのAPTと密接な関係にあるのがボール支配率です。
というのも、ボール支配率は文字通り、「試合時間のうちどれだけボールを保持していたか」を表す指標なのですが、ここで見落としがちなのが”試合時間”。ここでいう試合時間とは、「90分」のことではなく、アクチュアル・プレーイングタイム(APT)内のこと。つまり、
ボール支配率 = APT内のうちどれだけボールを保持していたか
となります。
なので、例えばAPTが55分の試合で、Aチームが支配率60%を記録した場合。Aチームは「90分」の60%、つまり54分間を支配したのではなく、APT55分のうちの60%である33分間を支配していたことになります。
ここで疑問になるのが、90分-APT、すなわち、スローインやゴールキック、セットプレーの準備などで実際のプレーがされていない時間帯の支配率は出せないのだろうか?ということ。
アウト・オブ・プレーイングタイム(OOT)
そこで、APTの逆、いわば"アクチュアらない”・プレーイングタイム、「90分」から実際のプレー時間であるAPTを差し引いた時間を、『アナリティック・マインド』では、「アウト・オブ・プレーイングタイム(OOT)」と表現していました。
アウト・オブ・プレーイングタイム(OOT)=90分-APT 『アナリティック・マインド』より
アウト・オブ・プレーイングタイムには、
・リスタートのためのボールを取りに行く
・ロングスローの準備をする(助走、ボールを拭く、CBの攻撃参加待ち)
・FK・CKのボールのセット(壁の作り方、守備陣の攻撃参加待ち、駆け引き)
・ゴールキックのセット(繋ぐor蹴り飛ばす、時計の針を進める)
・PKのセット(駆け引き)
・ファウル(抗議、遅延行為)
などが含まれます。
アウト・オブ・プレーイングタイム(OOT)と支配率
ここで、先ほどの例(APTが55分の試合)で考えてみたいと思います。APTが55分の場合、OOTは35分となります。これは「90分」という試合時間の約40%にあたります。
この40%にあたるOOTの過ごし方は、「リスタート直後、有利な状況 or 不利な状況 になるか」について大きく影響してきそうです。
そして、それをアウト・オブ・プレーイングタイムにおける時間内支配率(コントロール率)として表すことはできないでしょうか? 何か、試合結果や内容に関係がありそうで、意味を持つ数字となる気がします。
APTの準備として思考のインテンシティを高めることができるチームは、90分の試合中、本来ポゼッションしている30分間とアウト・オブ・プレーの35分の合計65分間、90分のうち72%をコントロールできていることになる。 引用:『アナリティック・マインド』
実際にアウト・オブ・プレー時の支配率を出してみた
対象とした試合は、個人的に応援している栃木SCの2021最終戦、「栃木SC vs FC琉球」。
主な試合前トピックとしては、ホームの栃木SCは田坂監督のラストマッチ、琉球は直近4試合負けなし、お互い昇格・降格の可能性はありませんでした。軽く内容を振り返ると、
<前半>
・後方から繋ぐ琉球vsカウンター狙いの栃木。
・両者、決定機&得点なし。 0-0
<後半>
・64分、柳の今季8点目のゴールで栃木先制! 1-0
・69分、清武選手が頭で合わせ琉球同点。 1-1
・76分、CKから赤嶺選手のゴールで琉球逆転(現役ラストマッチで!)。 1-2
・終盤、栃木はパワープレーで迫るも得点は奪えず。。
といったところでしょうか。
結果1-2でアウェイ・FC琉球勝利に終わったこの試合について、アウト・オブ・プレー時の支配率を導いてみたいと思います。
計算方法は、『アナリティック・マインド』で紹介されていた手法を参考にしました。アウト・オブ・プレーイングタイムにおける時間内支配率の評価指標は「OOT支配率」と定義してみました(コントロール率と言った方が直感的かも?)。
※書籍ではVPR(Virtual Possession Rate)と紹介されていました。
このOOT支配率は、アウト・オブ・プレーの要素である、ゴールキック(GK)、スローイン、コーナーキック(CK)、フリーキック(FK)といったリスタートに基づいて計算されます。
※なお、「FK数」などはスタッツサイト等で参照できるものの、「ゴールキック数」や「スローイン失敗数」などのカウントは手集計で行ったため公式記録とは異なっています。主観が入り混じった&多少の誤りがあるのでご注意ください(笑)
結果、OOT支配率は以下のようになりました。
FC琉球のOOT支配率が栃木を上回ったのは、ポゼッション重視のチームであるため、ファイナルサード以外のリスタートにおいて、ショートパスなどで近い味方へ的確にボールを渡し、プレーの流れをできるだけ止めない選択を多用していたこと。栃木SCは対人戦に強い選手を前線に集め、ロングボールやロングスローといった、確実性よりも偶然性を味方につける選択を多用していたこと。が要因と考えられます。
ここで、いわゆる”ボール支配率”と比較してみると、面白い結果が浮かび上がってきました。
ボール支配率: 栃木 34.5% : 65.5% 琉球 引用:Football LAB
と、多少の差はあるものの、”ほぼほぼ”似た数字となりました。
さらに、”ボール支配率”をAPT支配率とし、OOT支配率との合計として「(APT+OOT)支配率」(全体の試合時間のうちどれくらい支配したか)と、それぞれの「実質支配時間」を出してみました。
※ちなみに、APTとAPT支配率(=ボール支配率)は Football LAB さんから引用し、OOTは「試合時間-APT」として計算しました。
この結果から、琉球がこの試合の約65%をコントロールできていたことが分かります。この「65%」は、全体試合時間のうちの、約64分9秒にあたります。
また、OOT支配率を求める計算式の特性上、リスタートの成功 or 失敗が大きく関与するので、ポゼッション志向のチームは高い数値を取りやすく、非保持型やカウンター志向のチームは低くなりやすい、と感じました。加えて、ハーフタイムと飲水タイムの中断で試合を4分割し、それぞれ第1クォーター~第4クォーターに分けた場合、パワープレーやロングスロー、繋ぐよりも大きく蹴り飛ばすゴールキックが多用される第4クォーターは、それまでの第1~第3クォーターとは大きく異なる結果が得られる傾向があるように思います。
さいごに
今回は、試しに1試合、OOT支配率と、全体の試合時間における支配率を出してみました。例えば、これを複数試合で出してみて、相関を出してみるのも面白いかもしれません。また、2021シーズンの栃木SCで言うと、”ボール支配率”:34.8% でウノゼロ勝利したアウェイ・ファジアーノ岡山戦や、バチバチのバトルになるブラウブリッツ秋田戦でOOT支配率がどうなるか?にも興味が湧いてきました。
それでは!