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道徳教材「手品師」で”誠実”を考える 新しいタイプの授業
人気教材「手品師」を使った新しいタイプの授業を紹介します!
この教材は、子どもとの約束と舞台への出演の間で手品師が悩む話です。手品師は最後に約束を選びます。内容項目は「正直、誠実」です。
一般的な展開では、次のように授業が進みます。
まず、教材文を読んで、二つの選択肢を確認します。
見知らぬ子どもとの約束を選ぶのか、大舞台への出演を選ぶのかです。
次に、手品師はどちらの選択をしたら良いか話し合います。
二つの選択肢には、それぞれに良い点と悪い点があります。約束を選べば夢は叶わず、出演を選べば約束を破ります。児童は、どちらが良いのか、なぜそう考えたのか、活気ある話し合いが行われることでしょう。
続いて、「手品師は、なぜ約束を選んだのか」を考えます。
はじめは「約束は守るべきだから」「約束を破ったら子どもがかわいそうだから」「子どもが落ち込んでしまう」など、手品師と子どもとの関係に着目した意見が述べられることでしょう。
しかし、この事例で手品師が悩むのは、二人の関係性だけではありません。自分の人生との関係、手品師の生き方との関係が含まれています。
そこで教師が、「人生の夢である大舞台への出演を、そのような理由で、本当にあきらめるのでしょうか?」と問いかけます。
すると、子ども達からは「約束を破るようなことをしたくないから」「自分は約束を破る人になりたくないから」などの意見が出るようになります。自分の生き方として「約束は守りたい」とする意見です。「誠実に生きること」が大切で、そのために「自分は、約束を守る」のです。これは、選んだ理由を「自分の生き方」に理由があるとした深い意見です。
このような展開で「誠実」の価値について深く考えます。
しかし、”誠実”について考える方法は、別にもあります!
それは、選択肢を二つの他にも考え出し、それらに含まれる「誠実さ」を見つけ出して、価値について考える方法です。選択肢を俯瞰して、価値について考える授業です。
「俯瞰の力で学びを深める」新しいタイプの授業を ぜひ 体験してみてください。
まず、教材を読んで二つの選択肢を確認します。
約束を守るか、出演を選ぶかです。そして、それぞれを選んだ場合の良い点と悪い点を話し合います。
まず「手品師には、どんな選択肢がありましたか?」と問いかけて、二つの選択肢を確認します。
次に「約束を選んだ場合は、どんな良い点と悪い点がありますか?」と問いかけて話し合わせます。児童は、的確に良い点を悪い点を指摘できます。
続いて「出演を選んだ場合には、どんな良い点と悪い点がありますか?」と問いかけて、話し合わせます。
これによって、両者の利点と問題点が明らかになります。
次に、別の新たな選択肢を考えます!
「手品師には、他に選択肢はありますか?」と問いかけて、別の選択肢を考えて発表させます。
子ども達は、二つの選択肢の良い面と悪い面を検討しています。それらを両立できる選択肢を、どんどん発表することでしょう。
例えば「貼り紙をして、予定ができたことを伝える」「誰かに伝言を頼、む。そして、後で手品を見せる」「後日、子どもを見つけ出して謝り、事情を説明する」「後で必ず理由を伝え、劇場に招待する」などです。
グループ活動だと盛り上がりますね!
これらの活動で出た意見は、次の活動で考える際の材料となります。
そして、選択肢に含まれる「誠実さ」を見つけます!
「皆さんは、二つの選択肢の他に、いろいろな選択肢を考えてくれましたね。」とほめた上で、「先生は、はじめの二つの選択肢を含めて、これらの選択肢には、それぞれに誠実さが感じられるのですが、皆さんはどうですか?」と問いかけて、挙げられた選択肢に含まれる「誠実さ」を見つける活動を行います。
例えば、「貼り紙をする」には「明日は会えないけれど、その理由を伝えて分かってもらいたい」という誠実さがあります。「誰かに頼む方法」も同じです。「後で、子どもを見つけて謝り、事情を説明する」には「伝える時間はなかったけれど、その理由を説明して、理解してもらう」という誠実さがあります。「後で、手品を見せる」にも「約束を守れなかった穴埋めをする」という誠実さがあります。
このように、伝えようとすることにも、謝ることにも、改めて手品を見せようとすることにも、できる限りのことをしたいという「誠実さ」があります。これらを見つけて発表させるのです。
誠実さは、まだあります!
「旧友の思い」に応えることです。長い間、手品師の成功を願う旧友の思いに応えるのは誠実な行動です。夢を叶えることにも誠実さはあります。生涯を懸けた自分の思いや努力に誠実に向き合うのです。
大舞台に穴をあけないことも、客を楽しませる「手品師」として誠実な行動です。
児童は「誠実さ」を見つけるたびに、学びを深めていきます。
意見が出尽くしたら、各選択肢に含まれる「誠実さ」をひと通り確認します。そして、どの選択肢にも「誠実さ」が含まれており、どんな選択をするとしても「誠実に」行動することはできることを押さえます。
実際問題として、自分の人生と、見知らぬ子どもとの約束を対等に捉えるのは難しいです。小さな約束のために自分の人生を諦めるのは現実的ではありません。しかし、今までの授業方法では、授業の文脈的にそれを「よし」とし「手本」として授業が組み立てられていました。
これに対して、本授業の場合は、どのような選択をするにしても、相手にできる限りのことをしようと「誠実」に行動することができることを知る授業、そして誠実に行動することが大切という文脈の授業になっています。
誠実に行動する様々な方法を考える活動も行います。
「誠実」について広い視野から考え、自分ごととして具体的に考えることができる展開になっています。
この授業では、次のような流れで学習が進みました。
1.手品師の選択肢を取り挙げます。
はじめに、「約束を守る」か「出演するか」を確認します。
次に、新たな選択肢を考え出します。
2.それぞれの選択肢を考察します。
「約束を守る」か「出演するか」の良し悪しを検討します。
新たな選択肢の良し悪しも検討します。
3.全体を俯瞰して、価値について考えます。
それぞれの選択肢から「誠実さ」を見つけ出します。
そして、価値について考えを深めます。
これまでのタイプの授業では、場面ごとに、主人公の内面(気持ち・考え)を話し合って、価値を考えました。
この授業には、「内容の抽出」「内容の考察」「全体の俯瞰」の3つの活動があります。これまでとは、授業展開が大きく異なっています。
こうした展開方法を、「考察探究型の道徳授業」と呼んでいます。
この授業には、今までの方法にない利点があります。
○広い視野から手品師の選択を考えます。
「自分の夢」か「子どもとの約束」かだけでなく、旧友の思い、劇場への配慮、子どもへの配慮、自分の努力への思いなど、さまざま事柄を考察に含めています。複雑な状況でより良い方法を探すことが、価値への理解を深めるはずです。
○個人の判断を尊重しています。
一般的な展開では、「約束を守る」ことが手本とされます。「手品師は約束を選んだ」「その理由は○○だ」という流れには「約束を守る」ことが「正しい」という文脈があるからです。「皆が約束は守る」社会になってほしいこと確かです。しかし、それが難しいのも事実です。現代では、選択は個人に任され、それは尊重されるべきです。
○誠実に行動することを学びます。
この方法では、どんな選択肢にも「誠実さ」が含まれています。子どもたちは、どんな場合でも「誠実」に行動できることを理解します。具体的に行動する方法も学びます。
いかかでしょうか?
先生方は「手品師」でどんな授業を行いますか?
この授業は、次の授業案集に掲載しています。
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(主要指示、発問、板書案、教材作成の意図などを掲載しています)
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