第9章 データスチュワードシップ成熟度の評価
覚書です。
データスチュワードシップの成熟度評価は、組織がデータ管理をどの段階まで確立できているかを“見える化”して、改善の余地を発見するためのフレームワークである。
データスチュワードシップ成熟度評価の重要性
データスチュワードシップの取り組みが成熟するにつれ、進捗状況を把握することが欠かせない。
成熟度を測定すれば、定量的な評価が可能になり、関係者と共通認識を持ちながら改善活動を進めらる。
第8章で紹介されている各種指標(Metrics)とあわせ、成熟度モデルがもう一つの重要な「進捗を示す手段」。
データスチュワードシップ成熟度モデルとは
本書では、データ品質の成熟度モデル(Larry EnglishやDavid Loshin など)を参考にして、自組織のデータスチュワードシップ向上に使える独自モデルを組み立てることを推奨。成熟度モデルは大きく「レベル」と「評価軸」の2軸で構成。
レベル
多くの場合は5段階で示され、組織がデータ管理の取り組みをどの程度「体系化」しているかを表す。評価軸
組織の認識(Organizational Awareness)
役割と構造(Roles and Structures)
標準・ポリシーとプロセス(Standards, Policies, and Processes)
価値創造(Value Creation)
レベルと評価軸を組み合わせて、「今どのレベルにあり、何を目指すのか」を可視化する。
データスチュワードシップの成熟度レベル概要
本章では5つのレベルが定義されている。それぞれの段階がどのような状態か、ざっくりまとめると以下。
レベル1:初期 (Initial)
データに問題が起きると、場当たり的な対応を取る
組織としてデータ管理を意識していないため、IT部門頼みになりがち
データの問題解決プロセスが定まっていない(もしくは文書化されていない)
レベル2:戦術的 (Tactical)
データの問題が認識され始め、解決策に取り組み始める
一部のビジネス部門では「ビジネスデータスチュワードシップ」が徐々に登場
メタデータをまとめようという動きが限定的に始まる
ただし、まだ組織全体での連携は弱い
レベル3:明確な定義 (Well-defined)
組織全体でデータ品質を向上させる体制が明確になりはじめる
データガバナンスプログラムオフィスが設立され、データスチュワードシップの役割・責任が整理される
データの定義やルールの文書化など、標準化の取り組みが進行
組織としてデータを“重要資産”と捉える認識が高まる
レベル4:戦略的 (Strategic)
データガバナンスやデータスチュワードシップが、経営層の戦略課題として明確に位置付く
データ品質の継続的なモニタリングや改善が、ツールと連携して行われる
リスク評価やプロファイリングがプロジェクト初期段階から行われる
組織文化として「データ主導の意思決定」が当たり前に
レベル5:最適化 (Optimized)
データ管理が組織文化に完全に統合され、外部パートナーとの連携も視野に
継続的なイノベーションの推進や改善に注力
組織全体がデータドリブンになり、他社にとっての模範的存在
新たなプロダクトやビジネスモデル創出において、データガバナンスが深く貢献
成熟度を評価する4つの次元
レベルを評価する際、下記の4つの観点(次元)が特に重要とされている。
組織の認識(Organizational Awareness)
データスチュワードシップやデータガバナンスに対する経営陣・従業員の理解度
スポンサーシップ(支援体制)の有無や、全社的な教育・広報の進み具合など
役割と構造(Roles and Structures)
データスチュワードの役割が定義されているか、その責任と権限はどうか
データガバナンスを推進する組織・評議会・プログラムオフィスなどの体制
標準・ポリシー・プロセス(Standards, Policies, and Processes)
データの定義や品質ルール、セキュリティポリシーなどの標準化がどこまで整備・運用されているか
例外管理の仕組みや、従業員への周知・教育なども含む
価値創造(Value Creation)
データをビジネス価値につなげられているか
データを使ってどのような成果(コスト削減、売上増加、新サービス創出など)が生まれているか
データスチュワードシップが具体的なビジネスインパクトを生んでいるかどうか
成熟度評価データの収集
一般的に、アンケート形式で現場の担当者や管理職にヒアリングし、定量的・定性的データを集める。
回答は「はい/いいえ/部分的に同意」の3択にして数値化しやすくすると便利。
回答を数値化し、合計スコアを出して、あらかじめ定めた区間に当てはめることで現在のレベルを判定する。
調査結果の分析と進捗測定
数値スコア化
回答を基に合計スコアを算出し、各次元でのレベルを判定。
成熟度グリッドへのマッピング
「レベル × 評価軸」で表を作り、今の状態を可視化。
定期的な再評価
半年、1年スパンなどで同様のアンケートを実施し、成熟度の上がり下がりをトラッキング。
目標レベルとの比較
どのレベルを目指すのか明確にし、現状とのギャップを把握する。
ギャップと是正策の特定
現在のレベルと目標レベルを比較して、足りない要素(ギャップ)を洗い出す。
ギャップには優先度やリスク度合いを付与し、具体的な改善計画・推奨事項に落とし込む。
たとえば、管理職の理解が足りないというギャップには「管理職向けワークショップの開催」「評価制度への組み込み」などの推奨策が考えられる。
改善タスクには担当と期限を明確にし、定期的に進捗をモニタリングする。