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銀河フェニックス物語<少年編>第十一話 情報の海を泳いで渡れ(6)

レイターが艦長から情報を聞き出したのは喫煙所だという。
銀河フェニックス物語 総目次
<少年編>第十一話「情報の海を泳いで渡れ」
<少年編>マガジン

「どうして君はそんなところへ行ったんだ」
「へ? あんたが、この部屋で吸うな、って言うからじゃんか」
 タバコのような前時代的なモノを吸う若者はほとんど見かけないが、未成年の喫煙は銀河共通法で禁止されている。僕はレイターに、この部屋で、ではなくタバコ自体を吸うな、と言ったのに。
「アレックとハインライン爺さんが人事について話してるの聞いたのさ」

 元機関長のハインラインさんは今も喫煙者だ。機関室でタバコを吸っていた時代が懐かしい、と時々ボヤいている。

n400機関長たばこ

「誰にも言うなよ、って口止めされたけど、どうせあんたは知ってんだろ。他のみんなも噂してるし」
 どこまで広がっているのだろうか。しかし、艦長自らの情報漏洩では対処のしようがない。レイターのことを子供だと思っているせいで警戒感が薄すぎる。
「これ以上、ほかの人に言うんじゃないぞ」
 きつく釘を刺す。救いは漏れた情報が既定路線の昇格人事ということだ、漏洩による影響は少ない。
「大丈夫だよ。追い出されるような真似はしねぇから。っつうことで、明日の延長よろしくな」
 とレイターはウインクした。

 レイターは情報が集まるポイントをよく押さえていた。一つがハインラインさんだ。この艦で一番の年長者で今はアドバイザリー待遇のシニア専門職。現役時代には機関長も務めた。気のいい彼は隊員たちのよき相談相手でありアレック艦長の知恵袋にもなっている。
 レイターや他の隊員たちはハインライン爺さんと呼んでいるが、歴戦の古参兵に対して僕は口が裂けてもそんな風に呼ぶことはできない。

 レイターがハインラインさんと仲がいいのは、みんなが知っていた。元機関長は超一級の技師だ。銀河一の操縦士を目指すレイターにとって宇宙船情報の宝庫と言える。そして、ハインラインさんにとってレイターは孫のようなものだ。(年齢的には僕もそうなのだが)
 レイターの机の上にある大型プラモデルをプレゼントしたのも彼だ。宇宙航法概論を手にエンジンの前で話し込む二人の姿がよく目撃された。

 ハインラインさんには一つ欠点があった。食堂で酔っぱらうとすぐ隊員に絡みだすのだ。ハインラインさんが酒を注文すると「また爺さんのお得意が始まるぞ」とみんなが席を立ち、元機関長の周りから離れ始める。
「少し話をしないかね」
 不幸にも捕まった隊員は若かりし頃の昔話を聞かされた。戦況が厳しく、今よりずっと大変だった、という内容だ。
「いいか、いつ砲撃されるかわからないのが戦争だ。そんな中、イド海戦では味方を助けるか逃げるか、厳しい選択を迫られたんじゃ」
 それは、ひじょうに興味深い経験談だ。初めて聞いた時、僕にとってその情報は文献で得る以上に有益だった。だが、同じ話を二度も三度も聞くと、その有益であったはずの話は、自分の時間を奪う単なる自慢話へと変化してしまう。

 そんな中、食堂で給仕をしているレイターは「爺さんのイド海戦の話聞くの三十二回目だぜ」と言いながら、何度も同じ話を聞いて、いつも同じところで笑っている。

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 プラモデルを買ってもらうための作戦だろうか? 僕は聞いてみた。
「よく、ハインラインさんの話につきあっているな。そんなに面白いかい?」
(7)へ続く

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<出会い編>第一話「永世中立星の叛乱」→物語のスタート版
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48ノ月(ヨハノツキ)
ティリー「サポートしていただけたらうれしいです」 レイター「船を維持するにゃ、カネがかかるんだよな」 ティリー「フェニックス号のためじゃないです。この世界を維持するためです」 レイター「なんか、すげぇな……」

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