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銀河フェニックス物語 <ハイスクール編> 第九話(4) 早い者勝ちの世界
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・<ハイスクール編>第九話 (1)(2)(3)
そして、その世界へ僕はたどりついた。
脳が、身体が、へとへとになっていた。甘いものが食べたい。
でも、心はそれ以上に興奮していた。バローネ理論が実現可能なものへと一気に近づいたのだ。
どうして、これまで気づかなかったのだろう。
ほんの些細な、けれど重要な分岐点を僕は見落としていた。
顔を上げると、フローラの膝枕でレイターは寝ていた。少女が優しくレイターの頭をなぜる。
「レイター、起きて」
「ふが、できた?」
「あ、ああ。できた。できたぞ。できた!」
僕は大声で叫んでいた。
「ジョン・プー、おめでと」
少女とレイターは、顔を見合わせてにっこりと微笑んだ。
二人から幸せという名の祝福のオーラが飛んできたように感じた。
「早いとこ、学会へ提出した方がいいんじゃねぇの。誰かに気づかれたら終わりだろ。サッパちゃんに怒られるぜ」
レイターの言うとおりだ。高揚感から一気に現実へ引き戻される。
今、この瞬間にもマルガニ係数の虚数に気付いた人が、修正を名乗り出てしまうかもしれない。
「こ、ここから通信使わせてもらっていいか」
「どーぞどーぞ」
僕は、大慌てでバローネ理論の修正申請をした。
どうか、誰よりも早く。
「修正した論文は届きましたでしょうか?」
僕の発想から生まれた、僕にとっては子供のようなものだ。他の誰にも渡したくない。
焦りながら手続きに追われるその横で、レイターとフローラが仲むつまじく話をしていた。
「な、ジョン・プーはすごいだろ」
「ええ、レイターとは違って一直線よ」
「しょうがねぇさ。俺は操縦士だ、設計士じゃねぇんだ」
*
修正申請が受理された。
僕はほっとしながら担当教官のサパライアン教授に、事後承諾の連絡をいれた。
「ジョン、君は本物の天才だ!」
教授は通信機の前で、個性的なしゃがれた大声をあげた。
「い、いえ、とんでもありません」
「これで君のバローネ理論は完璧なだけでなく、実用化に向けて大きくはずみがついたな。キンドレール賞も夢じゃない」
キンドレール賞。
あまりにもビッグな賞の名前を耳にした途端、僕は我に返った。
「ち、違うんです、これは」
僕じゃない。彼女だ。
フローラが指摘したからわかったのだ。
しかも、さっき彼女は何と言っていたか。
レイターと違って一直線、と。おそらく、彼女は、そしてレイターもすでにこの結論にたどり着いていたのだ。
僕の足が震えだした。
とその時、
「はぁ~い。サッパちゃんおげんこ?」
レイターが通信機の前に立った。
「何じゃお前か」
研究室にしょっちゅう顔を出していた宇宙船お宅のレイターは、サパライアン教授と馬が合った。
「プーさん凄いじゃん」
「そりゃそうじゃ、わしの一番弟子だ」
「これで儲けたらおごってくれよ」
「何でお前におごりゃにゃならんのだ」
「だって、俺の部屋でできたんだもん。ショバ代さ」
「まあいい。この修正は画期的な発見じゃからな。今度、遊びに来い。飯ぐらいおごってやる」
「やったぁ。じゃぁね」
と言うが早いか、レイターは通信を切ってしまった。
「ちょ、ちょっと待ってくれ」
「あん?」
「これはおかしい」
「何が?」
「君たちは、僕より先に気づいていたんだろ」
「君たち、ってのは間違ってるな。気づいたのはフローラだ」
「やっぱり駄目だ。彼女の名前で申請し直そう」
「別にいいじゃん。な、フローラ」
「ええ」
彼女は静かに微笑んだ。
「よくない!」
僕は腹の底から怒鳴るような声を出した。こんな風に人に声をぶつけたことが、これまであっただろうか。 最終回へ続く
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