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銀河フェニックス物語<出会い編> 第四十一話(10) パスワードはお忘れなく
レイターとティリーはゲリラの戦闘機を奪って宇宙空間へと飛び出した。
・銀河フェニックス物語 総目次
・第四十一話(1)(2)(3)(4)(5)(6)(7)(8)(9)
レーザー弾が飛び交う。
怖い。けれど、大丈夫、レイターは銀河一の操縦士だ。
「ティリーさん、もう一度、操縦棹を引っ張ってくれ」
言われたとおりに力を入れる。
「っつう」
レイターが小さな声でつぶやいたのが聞こえた。手の力が弱まる。
「心中したくなかったら引っぱるんだ」
レイターの声に押され、ぐっと力を入れる。
船が急上昇する。
身体がレイターと密着する。こんな時なのに、安心感に包まれる。レイターと一緒なら、もうどうなってもいい。
レイターが足元のペダルを足で操作すると、船のスピードがぐんぐんと加速し相手を引き離していく。
逃げ切れたのか、と思ったのだけれど、敵もそう甘くは無かった。
ピピピピピ…
レーダーが追ってくる一機を捕らえた。
「レイター・フェニックス! 逃がしはしない」
通信機からロベルトの声がした。
「ちッ、めんどくせぇな。ティリーさん右手はずしてくれるかい?」
右手を離すとレイターは手のひらを使って操作を始めた。
見たことのないパネルが出てきた。手伝おうかと思ってパネルをあらためて見た瞬間、思わず息を呑んだ。
銃撃用のトリガーだ。
「ど、どうするつもりなの。ロベルトを撃つの?」
レイターは何も言わない。
彼は左手で操縦桿を握り、右の折れた指で苦労しながら自分でセットしている。わたしに手伝えとは言わない。
やめて、と言おうとした時、
ロベルトが撃ってきた。
ガガガガガツッツ
「急旋回するぜ」
レイターの手の動きに合わせて左手で操縦棹を引く。横Gがかかる。
レイターが右手でパネルのスイッチを押した。白い光が飛び出す。レーザー砲だ。
ピルルルルル…
『目標物に命中』
目視ではわからないけれど。当たったようだ。
ロベルトはどうなったのだろう。撃ち落としてしまったのだろうか。胸がバクバクする。
レイターはロベルトの船へ針路をあわせた。
白煙が見えた。ロベルトの機体だ。噴射口が打ち抜かれていた。あれでは自力で動けない。
「俺を殺せ!」
ロベルトの声が通信機を通して聞こえた。
「父を殺したように殺せ!」
その言葉を無視してレイターは、ロベルトの船を救うための救難信号を流した。
「情けはいらない。俺は生き延びたらまたお前を殺しに行く」
レイターが通話スイッチを入れた。
「あんたの親父『ハゲタカ大尉』は凄腕だった。あの日、戦闘になるなんて誰も思ってなかった。たまたま俺たちの部隊と鉢合わせしたんだ。磁場宙域で識別信号がきかない中、訓練の流れ弾が当たって、そのまま戦闘に突入しちまった」
さっき自白剤で話した続きを、レイターは伝えようとしていた。
「俺はあんたの親父を殺した、その理由は簡単だ」
人を殺すのに簡単な理由。嫌な言葉だ。
「俺は連邦側最後の一機になって、『ハゲタカ大尉』と向かい合った。あんたの親父は英雄と呼ばれるのにふさわしい、俺がこれまで会ったどの戦闘機乗りよりも一番の腕前だった。速さ、威力、技術、すべてがそろってた。殺らなきゃ俺が殺られてた。生きて帰るには倒すしか無かった。それが、俺とあんたの親父の仕事だった」
人を殺してもいい簡単な理由。戦争。
「あんたが俺を憎むのは自然なことだ。俺を殺したければ、何度でも来ればいいさ」
「俺は、お前が死ぬまでいくぞ」
レイターは静かに続けた。
「俺は殺されたって構わねぇ。悲しむ人も恨む人もいねぇからな」
耳元で聞こえたその声にゾクっとした。
さっきレイターはロベルトに蹴られながら、死を受け入れようとしているように見えた。本気でレイターはそう思っているのだ。
「レイターは死を恐れていないから死の直前まで向かって行ってしまう」
チャムールの言葉が頭に浮かんだ。 (11)へ続く
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