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銀河フェニックス物語<恋愛編> 第四話(5) お出かけは教習船で

突風教習船でアステロイドを飛ばしていると、飛ばし屋グループ『ギャラクシー連合会』の総長アレグロが声をかけてきた。
銀河フェニックス物語 総目次
<恋愛編>お出かけは教習船で (1)(2)(3)(4
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「ティリーさん、一緒に上級コースで飛ばしませんか?」
 アレグロさんに誘われた。無理な話だ。
「いえ、あの、わたし、操縦ものすごく下手なんです。アステロイドベルトを自分で操縦したのも初めてで……」
「え? そうなんですか? いつもレイターと一緒に飛ばしているのかと思いました」
 アレグロさんが意外だという顔をした。
 レイターの彼女と言えば操縦が上手いというイメージがあるのかも知れない。彼氏と一緒に船を飛ばせたらどんなに楽しいだろうか。

 レイターは裏将軍時代には『ギャラクシーフェニックス』のナンバーツー御台所のヘレンさんと付き合っているフリをしていた。フリ、と言っても夜も共にするという濃密な関係だ。

裏将軍と御台バックなし

 情報ネットを検索すれば、裏将軍と御台所の逸話は山のように記事になっている。

 御台所のヘレンさんはわたしに言った。「レイターを愛しているの」と

 その関係が恋愛ではないことを知っている。けれど二人は船を通じて深いところで繋がっている。わたしには立ち入れない世界。
 プロの飛ばし屋であるヘレンさんなら銀河一の操縦士とお似合いだ。

  心がざわつく。

 アレグロさんが続けた。
「残念ですね。前にアステロイドの上級で見た『白魔』とのバトルがすごかったので、ぜひ、ティリーさんとご一緒したかったのですが」

白魔む

『白魔』とのバトル。
 思い出すだけで、身体がしびれる感覚に襲われる。

 まだ、わたしとレイターがつきあう前のことだ。
 レイターはアレグロさんに頼まれて、御台所の代打ちとして『白魔』と戦うことになった。わたしはたまたま、趣味の船仲間としてレイターの助手席に座っていた。

 そのバトルの最中、『あの感覚』をレイターと共有した。

 小惑星帯で『白魔』をとらえゴールが見えた時、まるで世界がスロー再生されているようだった。

 時が止まる全知全能の感覚。宇宙空間は真っ白に輝き、多幸感に包まれた。言葉では表せない領域をはっきりと感じた。

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 銀河一の操縦士がずっと追い求めている『あの感覚』。無敗の貴公子との激闘でも感じられなかったという世界は確かに存在していた。

 もう一度『あの感覚』に触れたい、と実はその後もレイターと一緒に小惑星帯を飛ばしているけれど、再現はできていない。

「ふむ、折角だから、行ってみっか。上級へ。もしかしたら『あの感覚』のヒントがつかめるかも知れねぇし」
 レイターがわたしを見た。

「無理に決まってるでしょ! 初級だって危なかったのに」

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 レイターったら昔の仲間に誘われて、上級で飛ばしたくてうずうずしている。

「大丈夫、銀河一の操縦士の俺がついてる」
「さっきは死ぬほど大変だ、って言ったくせに」
「平気平気。さっきの飛ばしであんたの下手くそな操縦の癖はつかんだ」

 レイターがわたしを見て笑った。その笑顔についつられてしまった。

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 天性の人たらしだ。
 「しょうがないわね」
「じゃあ、話は決まりだ。ティリーさん、アレグロの後についていきな」

 飛ばし屋の総長であるアレグロさんは、当たり前だけれど操縦が上手かった。
 アレグロさんの通ったあとを着いていくと、小惑星帯を抜けるのが楽だった。わたしのことを考えてコースを選んでくれている。
 と言っても小惑星にぶつからないのは横でレイターが必死にルート修正してくれているからだけれど。

 アステロイドベルトの上級コースへ着いた。
 ここへはしょっちゅう来ている。とはいえ、いつもは助手席だ。見慣れた景色が違って見える。

 ほかにも何機か飛んでいた。
 アレグロさんから連絡が入った。

横顔微笑逆

「レイター、あそこの一団からバトルを申し込まれたぞ、どうする?」
「バトル? 無理よ、絶対駄目!!」
 わたしは大声で叫んだ。    (6)へ続く

<出会い編>第一話「永世中立星の叛乱」→物語のスタート版
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48ノ月(ヨハノツキ)
ティリー「サポートしていただけたらうれしいです」 レイター「船を維持するにゃ、カネがかかるんだよな」 ティリー「フェニックス号のためじゃないです。この世界を維持するためです」 レイター「なんか、すげぇな……」

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