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銀河フェニックス物語<裏将軍編>最後の最後は逃げるが勝ち(1)
・銀河フェニックス物語 総目次
・裏将軍編のマガジン
・【出会い編】第三十四話「愛しい人のための船」
宇宙船飛ばし屋チームの新興勢力、ギャラクシー・フェニックスは、東のエリアを今日の勝利で抑えた。銀河統一まであと一つ。
「うーん。違う」
喜んでいいはずだが、総長の裏将軍は頭を抱えていた。
側近のアレグロが心配して聞いた。
「どうした?」
俺の問いにレイターは苦しそうに答えた。
「思うように操れねぇんだ」
「船がか」
あいつは目を伏せた。
口に出して認めたくないないという顔だった。こんな表情を見たのは初めてだ。
御台所のヘレンが心配していた。
このところレイターの飛ばしにキレがないと。
確かにタイムも伸びていない。
とは言え、今日もこいつは圧倒的な速さでバトルに勝ってきたところだ。傍目には裏将軍は健在だ。
「ちっ、膝が痛てぇし」
レイターが膝をなぜた。俺はこいつが不調の理由に気がついた。
「お前、操縦席のサイズがあっていないんじゃないか」
「ああ、教習船のシートがキツいんだよな」
レイターがバトルで飛ばす突風教習船の操縦席には、小柄なリゲル星人用のシートが載せてある。
驚くことに、この二ヶ月でレイターの身長は十センチ以上伸びた。
御台所の身長を抜いたと思ったら、俺の背にみるみる近づき、服から手足がにょきにょきと飛び出した。仕方がないから、俺のお古を進呈した。
膝が痛いのはおそらく成長痛という奴だ。
こいつの操縦はミリ単位の精度だ。体の急激な成長で感覚がズレてきたことと、シートがきつくなり操縦がしづらくなった。この二つの要因で思うように動かせていないのだろう。
「どうするんだ? シート載せ替えるか」
「シート買う金もねぇし、教官席に乗るかなぁ」
突風教習船は助手席にあたる左の教官席にも操縦機能があり、普通サイズのシートが載せてある。
ただ、零コンマのバトルをするためには、メイン操縦席に繋ぎ換える作業が必要だ。
「いずれにしても改修だな。来週の決戦はウエスタンクロスのノーザンダが相手だぞ。間に合うか」
西エリア最大の飛ばし屋チーム、ウエスタンクロス。
老舗のこのチームの旗を取れば、銀河連邦の飛ばし屋を統一することになる。
「俺は銀河一の操縦士だぜ」
珍しくレイターの言葉に力が無かった。
西の頭を張っているノーザンダは速い。
S1を狙っているという話も聞く。
ノーザンダの飛ばしの映像を分析した時に「フュー。こいつは手強い。対戦するのが楽しみだぜ」とレイターは嬉しそうにしていた。
だが、よりによって、レイターがこんなスランプの時に対戦することになるとは。
いきなりの左操縦席。しかも、遠征だ。
新興勢力の我々は老舗に礼を尽くして、先方の西のエリアへ出向くことにした。
バトル会場のウエスタン小惑星帯は、気体放出を繰り返す間欠泉小惑星がところどころ含まれていて、突如、空間気流が発生するという難所だ。
我々は映像でしか確認できないが、向こうは毎日のように飛ばしている庭。相手に圧倒的な地の利がある。
そうは言っても、レイターが負ける姿は想像できない。
こいつはすごい奴だ。裏将軍を名乗らせてから、無敵だ。
ギャラクシー・フェニックスが短期間でここまで拡大するとは、シナリオを描いている自分も想定していなかった。
東エリアは完全に抑えた。
裏将軍が死ぬより怖い制裁で厳しく締めているから、一般道の暴走行為が激減した。
だから銀河警察もほとんど見て見ぬふりをして黙認している。だが、ウエスタンクロスを破り、飛ばし屋統一ということになると力を持ちすぎる。
警察も動いてくるに違いない。 (2)へ続く
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