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銀河フェニックス物語<少年編>第十六話(1)感謝祭の大魔術

 銀河フェニックス物語 総目次
<恋愛編>第七話「彼氏とわたしと非日常
<少年編>第十五話「量産型ひまわりの七日間」
<少年編>マガジン

「二週間後に感謝祭を開く。それまでの間、一切仕事は受けない」
 アレック艦長の命令は絶対だ。

 戦艦アレクサンドリア号は久しぶりに宇宙空間へと飛び立った。
 領空侵犯した敵機を捕獲した後、捕虜が死亡した。人権委員会が仲介に入り銀河連邦とアリオロン同盟の交渉が秘密裡に行われた。中継地点では面倒な尋問と事務作業に追われた。隊員たちには気分転換が必要だ。特にあいつにはな。

**

 ほとんど船が通らねぇ辺境空域をパトロールだっつって慣性飛行してるが、これ、仕事さぼってるだろ。訓練時間も短縮されて、感謝祭の準備で忙しい。何に感謝するんだか知らねぇけど祭りは嫌いじゃねぇ。パーティの出し物として俺はヌイと歌を歌うことにした。

 防音室でヌイのギターに合わせて、選曲していた時だった。突然、アレックが顔を出した。
「お、レイター、がんばってるな」
 何だか嫌な予感がした。こういう笑顔のアレックは大体面倒なことを持ち込んでくる。
「お前に頼みがあるんだ」
 やっぱりか。
「なんでぃ」
「感謝祭にアーサーを出演させたいんだ」
「は?」
「あいつももっと、みんなと親睦を深めたほうがいいだろ」
「アーサーなら観客として出席する、って言ってたぞ」
 アレックはにやにや笑っている。
「出席じゃない、出演だ」

「あんたが出ろ、って命令すりゃいいじゃねぇか」
「お前がやれ」
「やだね」
「ふ~ん、船を操縦できなくなってもいいのか?」
 俺は全身の力が抜けそうになった。
「脅しかよ。大人って汚ねぇな」
「脅し? 違うぞ、艦長命令だ。ヌイ、手伝ってやれ。アーサーと三人で歌ってもいいぞ」
 それだけ言うと、アレックは愉快そうな足取りで出ていった。
「お前さん、大変な任務をさずかっちゃったね」
 ヌイが苦笑しながらマイナーコードでギターを鳴らした。
「あいつが歌を歌うと思うか?」
「思わないよ」
「だよな」
 はぁ。俺は長いため息をついた。

 **

 近づいてくるレイターの様子がおかしい。何かをたくらんでいる顔だ。

「なあ、あんた、感謝祭に出ねぇか?」
 僕はレイターの問いかけの意味がよくわからなかった。
「出席する、と言ったはずだが」
「いや、俺たちと歌、歌わねぇか?」
「……」

 新しい嫌がらせだろうか。
 僕が歌わないことを、こいつはよく知っているはずだ。僕は音楽に対してコンプレックスがある
「三人じゃないと困ることでもあるのか?」
「いや別に。とにかくあんたに感謝祭に出てもらいてぇんだよ」
「どうして?」
「知るか」
 投げやりになっている。誰かに言われたな。
「誰に頼まれたんだ?」
「アレックさ」
 隠すことでもないのだろう、レイターは肩をすくめて答えた。
「艦長が?」
 あの人は時々、思い付きで行動する。この感謝祭の開催自体がそうだ。

「とにかく、これは艦長命令なんだよ。だから出ろ」
「それは人に物を頼む言い方じゃないね。それに僕はそんな命令は受けていない」
 レイターが貧乏ゆすりを始めた。
「頼む。頼みます。お願いします。出てください。あんたが出ねぇと、船の操縦させてもらえねぇんだよぉ」
 手を合わせて今にも泣きそうな顔をしている。こいつにとって船の操縦は食事以上の存在だ。艦長も酷な条件を出すものだ。
「僕が歌わないことは、お前もわかっているだろう」
 歌でなければ、協力できないこともないが。
「ちっ、だから、こうして下げたくもねぇ頭を下げてるんじゃねぇかよ」
 舌打ちをするレイターにカチンときた。
「お前が船を操縦できなくても僕は一切困らない。出ないと言ったら出ない」
「マジかよ」
 レイターの困りきった顔を見ていると、楽し気な気持ちが湧きあがってきた。自覚したことはなかったが、自分は意地悪な人間なのかもしれない。
(2)へ続く


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48ノ月(ヨハノツキ)
ティリー「サポートしていただけたらうれしいです」 レイター「船を維持するにゃ、カネがかかるんだよな」 ティリー「フェニックス号のためじゃないです。この世界を維持するためです」 レイター「なんか、すげぇな……」

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