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銀河フェニックス物語<出会い編> 第四十話(5) さよならは別れの言葉
『無敗の貴公子』引退後のレース界『期待の新星』としてレイターのことが取り上げられていた。
・銀河フェニックス物語 総目次
・第四十話(1)(2)(3)(4)
プロフィールの紹介は続く。
ハイスクール中退後、将軍家を飛び出しギャラクシー・フェニックスの総長『裏将軍』として君臨。飛ばし屋統一時代を築く。
このころの映像が次々と放送された。ほとんど投稿動画だ。
見ているだけで怖い。小惑星帯を駆け抜ける死と隣り合わせの飛ばし。
「皆さんは真似しないでください」とアナウンサーが呼びかける。
そして、ギャラクシー・フェニックス突然の解散。
限定解除免許を取得し、宇宙船メーカー大手のクロノス社へ入社する。
見慣れたうちの本社の外観映像が映し出される。
一年で退社後、ボディーガード協会に登録し、フリーの操縦士とボディーガードで生計を立て今日に至る。
どこかの国際会議で警備をしているよそいきレイターの映像が流れた。要人の後ろに立つ姿は普段と違って凛々しい。テレビ局の人がよく見つけてきたと感心する。
レイターの過去。
ほかにも何かある気がするのだけれど、放送されているのは全部わたしの知っている話だった。
番組を見ながら思う。レイターの人生は普通じゃない。
話題性に富んでいて、マスコミが放っておくはずがない。
急に遠い人のように感じた。
レイターはレース後、メディアのインタビューに一切答えないで、そのまま雲隠れしてしまった。
住所登録している将軍家の月の御屋敷まで出かけコメントを取ろうとした強者の記者もいたけれど、侍従頭のバブさんに門前払いにあっていた。
エースが引退した後のS1界を引っ張るレーサーとして、まさにレイターはうってつけだ。各チームがレイターの獲得に動きだした、という気になる記事も出ていた。
レイターは、次のシーズンどうするのだろう。ハールは跡形もなく壊れてしまった。
エースが引退した後、うちのチームはどうするのだろう。
クロノスがレイターを第一パイロットとして引っ張る、という選択肢はあるのだろうか。
クロノスの船にレイターが乗る。
想像すると胸が弾んだ。うちの船は文句無く銀河一だ。
それに銀河一の操縦士が乗れば、優勝間違いなしだ。
レイターはエースより速い。エースの無敗伝説だって塗り変えてしまうかも知れない。
でも、でもそうはならない気がした。
レイターはクロノスの船に乗らないだろう。あの人はそういう人だ。
かといってほかのチームに乗られても困る。うちの第二パイロットじゃ、絶対レイターに勝てない。
もやもやした気分が晴れない。
直接レイターに聞けばいいのだ。
どうしよう。レイターと話したい。
フェニックス号の通信番号をセットする。
でも、何と切り出せばいいのだろう。
「惜しかったね」「残念だったね」「あと少しだったね」「がんばったね」
どれも違う。
優勝したエースの側のわたしからかける最初の言葉が見つからない。
「無敗の貴公子はさすがでしょ」
と、いつものように軽口で自慢してみる? いや、あんなすごいレースを見た後じゃ言えない。
ほんとうはレイターから声をかけてくれたらいいのに。
いや、この状況でレイターがわたしのことなんて思い出しているはずがない。
通信ボタンの前で躊躇をしていたら、着信が入った。
営業時代の後輩、サブリナだった。
「ティリー先輩、相談に乗ってください」
泣きそうな声だった。
「ど、どうしたの?」
「この記事、見ました?」
サブリナが送ってきた記事を確認する。
「スクープ!『無敗の貴公子』はかつてレイター・フェニックスに負けていた」
大きなタイトルが踊っていた。
六年前、レイター・フェニックスはクロノス社のテストパイロット時代にエースに勝ったことがある、と書かれている。
レイターが退社する前の騒動が記事になっていた。
「ああ、この話。出ちゃったんだ。でも、ちょっと間違っているわね。レイターは営業部だったからテストパイロットだったわけけじゃないわ」
「先輩、よく落ち着いてますね」 (6)へ続く
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