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銀河フェニックス物語<少年編> 自由自在に宙を飛ぶ(7)
ハミルトンは大手航空会社の一流パイロットだった。
・銀河フェニックス物語 総目次
・【自由自在に宙を飛ぶ】(1)(2)(3)(4)(5)(6)
結婚して間もなく、二人の間には男の子が産まれた。
絵に描いたような幸せな人生。
しかし、私生活はその後、破綻した。
遠距離航路の機長で長期間家に帰って来ないハミルトンとのすれ違いの生活に疲れた、妻の不倫が原因だったと言う。
そして、ハミルトンは密輸に手を染めた。
「自暴自棄になっていたのさ」
航空会社の職員、特にパイロットは所持品の検査が緩い。持ち込み禁輸品を手荷物に入れて運び、金を受け取っていた。
銀河警察に摘発されたハミルトンは、航空会社を解雇された。
そんなハミルトンに、アレック隊長が連邦軍入隊を誘ったのだという。「アレックに拾ってもらわなけりゃ、俺は野垂れ死にしてたところさ」
レイターが笑った。
「ほんと、俺と一緒じゃん」
「お前、俺の息子と同い年には思えんな」
ハミルトン少尉の話には、いつも私たちと同じ年の息子が出てくる。
私は聞いた。
「ご家族はどうしているんですか?」
「離婚調停中さ。俺は息子を引き取りたいんだが、なんといっても元犯罪者だからな」
少尉は肩をすくめ自虐的な笑みを見せた。
*
その日の戦闘機訓練でもレイターは、ハミルトン少尉に逃げられた。
「見失わない様に意識してるのに、何でだよぉ」
レイターが苛立ってハミルトン少尉に突っかかる。
「俺は、坊主が生まれる前から船に乗ってるんだ。年季が違うんだよ」
「そんなこと言ってたら、一生勝てねぇじゃん」
ハミルトン少尉がレイターの肩を叩きながら言った。
「まあ、そう焦るな。もう少ししたら俺はこの艦を降りて陸にあがる」
「え?」
「息子と暮らすために地上勤務を希望してるんだ。俺がいなくなればお前の天下だ。それでいいじゃないか」
「いい訳ねぇだろ」
レイターが動揺している。
ハミルトン少尉が操縦士を引退すれば、レイターはこの艦のエースパイロットになれる。銀河一の操縦士だって名乗れるかもしれない。だが、それで、レイターが喜ぶとは思えない。
「頼む、俺があんたを倒すまで辞めないでくれ」
「随分と都合のいい頼みだな」
ハミルトン少尉は鼻で笑って立ち去ろうとした。
その背中にレイターが叫んだ。
「俺はあんたを尊敬してるんだ!」
その言葉にハミルトン少尉は立ち止まった。
そして振り向きながらつぶやいた。
「お前が俺の息子だったら…」
言いかけてハミルトン少尉は止めた。
* *
「お前が俺の息子だったら…」
そう言いかけて、俺は後悔した。
俺は、何と罪深いことを口にしたのだろう。
息子が幼い頃、俺は遠距離航路の旅客船の機長だった。
家に帰るたびに息子はぐんぐんと大きくなっていた。俺を歩いて出迎えた時には驚いた。そんな息子の成長を見るのがうれしくて仕方がなかった。
妻も息子も愛していた。
星々を回りながら家族を思って土産を選ぶのは楽しい。
おもちゃを買う時には気をつけた。幼いわが子がケガしないように、と柔らかい素材でできた宇宙船を購入したことがある。長期の仕事を終えて自宅へ帰ったころには、息子はリアリティのある玩具を好む男の子になっていた。
「これは赤ちゃんがつかうおもちゃだよ」と息子に諭されてしまった。
それ以来、土産は遠い星系から高い配送料を払って送るようにした。
家族を養うために俺は一生懸命働いた。
俺の一体何がいけなかったのだろう。 (8)へ続く
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