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銀河フェニックス物語<出会い編> 第三十九話(14) 決別の儀式 レースの前に
・第一話のスタート版
・第三十九話 まとめ読み版① ② (10)(11)(12)(13)
* *
腕組みをしたまま、アラン・ガランは薄っぺらいハールの機体を見つめていた。
左足の貧乏ゆすりが止まらない。
「脳がつぶれるまで考えろ、知力は体力だ」
老師の言葉が聞こえた気がした。あの頃、『風の設計士団』にいた頃。何日もぶっ通しで議論を続けていた。
似たようなことを今、ここ、スチュワートの工場でやっている。
相手は助手のオットーとレイター。
整備士の免許を持つレイターが、船の構造に詳しいことは知っていた。だが、ここまで精通しているとは。
「レイター、お前、ほんとに設計士の免許持ってないのか?」
「俺は銀河一の操縦士だぜ、そんなもん取るほど暇じゃねぇんだよ」
ボディーガード協会のランク3Aというレイターの体力は並じゃなかった。いい意味で、脳が筋肉でできてるんじゃないか、と思うぐらいへばらない。
いろいろなアイデアを次から次へと思いつく。発想が取り柄なこの僕がびっくりするほどに。
ハールとメガマンモスをつなぐため、僕とレイターが出すアイデアを、オットーがぶつぶつ言いながら一つ一つ計算する。
この三日ほとんど寝ていない。
驚いたことにレイターは基礎論文から技術論文まで、きっちり最新版にアップデートしていた。
設計士でもない人間に僕が負けるわけにはいかない。
僕はこれでも風の設計士団で、リーダーを務めていたのだ。
*
あの頃、風の設計士団では僕がリーダー、ルーギアがサブリーダーを務めていた。
思い出したくない名前。ルーギアが僕に言った。
「アラン・ガラン、リーダーである君が、そんな実現性の低いアイデアばかり出していてどうするんだ。我々は、技術を売ることで利益を出しているんだぞ」
僕は反論できなかった。実用化できるという予感はある。だが、いつまでたっても結論にたどり着けない。
ルーギアは不満を持っていた。
僕の下のサブリーダーであることに。
彼は僕よりずば抜けて計算力が高かった。そして、政治的な力にも長けていた。風の設計士団のメンバーが僕を無視し始めた。
「君が実現可能なアイデアを出せば、みんなもついてくるんじゃないか」
ルーギアは蔑むような眼で僕を見た。気がつくと誰も僕のアイデアを議論しなくなっていた。
僕は人づきあいが苦手だ。リーダーの器でないことは自分が一番よく知っている。
僕をリーダーに選んだのは老師だ。
老師の言葉は、今も僕の心の中に残っている。
「アラン・ガラン、お前はすごいぞ。革新的なその発想こそが風の設計士団に必要だ」と。
その言葉を信じてがんばってきた。
だが、この三か月、僕が出した八つのアイデアは一つも技術として実現しなかった。
ルーギアが静かに僕を責めた。
「君は、この結果をどう考えているんだい?」
老師はどこかへ出かけたきり半年以上会っていない。連絡先もわからない。
もう、限界だ。僕は風の設計士団を辞めることにした。
リーダーは老師が決める。
だが、リーダーが設計士団を抜ければ、サブリーダーがリーダーになる。僕が抜けた後、ルーギアがリーダーになった。
設計士としてどこかのメーカーに就職しようと、履歴書を書いていた時だった。知人からスチュワートさんを紹介された。話してみたら面白い人だった。
彼は自分でS1チームを作るのだと言う。一緒に働きたいと思った。
だが、僕にはS1の経験はない。S1は専門性が高い。迷惑をかけるわけにはいかない。
お断りの連絡を入れようと思った時、採用の通知がきた。
「どうして僕を雇ってくれたんですか? S1機を設計した経験はないとお伝えしましたよね」
「う~ん、面白そうだったから」
そう言ってスチュワートさんは笑った。
僕は一からS1について勉強した。S1機の特性、細かいレギュレーション、面白い。
いつしかS1は僕を虜にした。 (15)へ続く
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