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銀河フェニックス物語<恋愛編> 第四話(6) お出かけは教習船で

アステロイドベルトの上級コースでバトルを申し込まれ、ティリーはあわてて断るように叫んだ。
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<恋愛編>お出かけは教習船で (1)(2)(3)(4)(5
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 この人たち、わたしが操縦桿を握っているというのに、バトルを受けかねない。レイターがちらりとわたしを見た。
「っつうことだから、丁重にお断りしといてくれ」
 残念そうに答えると、アレグロさんが意味ありげに笑った。
「ほう」
 彼がバトルを断ることが珍しかったに違いない。少し胸が痛んだ。

 バトルではなく、アレグロさんの後ろについてアステロイドの上級コースを流して飛ばすことにした。
 上級は小惑星の間隔が狭い。緊張する。

 アレグロさんの船がスタートした。は、速い。
「ほれほれ、置いてかれるぜ」
 あわてて加速したけれど、やっぱり上級は違う。小惑星の間隔が狭い。次から次へと目の前に迫ってくる。
「きゃあ」
 アレグロさんの船を追いかけるどころじゃない。

 すっと、船のスピードが落ちた。

「ゆっくりでいいから、落ち着きな」
 レイターが減速をかけてくれた。わたしは軽いパニックを起こしていたようだ。
「う、うん」

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「大丈夫、俺がついてる」
 レイターの声に安心する。大丈夫、レイターが一緒だ。
 速度を落として、一つずつクリアしていく。アレグロさんとは完全にはぐれてしまった。

「変だな」
 レイターがつぶやいた。
「ティリーさん、ちょっとコースから抜けるぞ」
「え?」
「そのまま上昇させてくれ」
 よくわからないけれど、操縦桿を引く。
 教習船は小惑星帯から抜け出した。   

「アレグロ、おいアレグロ聞こえるか?」
 呼びかけに返事が無い。
 レイターがモニター画面を切り替えていく。飛ばし屋が小惑星帯のルートに設置しているライブカメラだ。

「ちっ、ばれたか」
 レイターが舌打ちする。
 アレグロさんの船の周りに黒い船が十機近く集まっている様子が映っていた。

「ばれた? ってどういうこと」
「連合会総長ともなると敵も多いのさ」

 相手は船に槍のようなデコレーションをつけていて品がない。
「あの改造は『黒玉』だな」
 レイターによると『黒玉』はギャラクシー連合会に所属していない独立系暴走族ということだった。

「ティリーさん、アレグロのところまでショートカットして飛ばすから加速してくれ」
「わかったわ」

 小惑星帯じゃなければ、わたしだって操縦できる。
 アクセルを踏む。

 うわっ。すごいスピード。直線番長のことを忘れていた。

 アレグロさんと黒玉のやりとり通信を傍受する。
「総長がひとりでお忍びとは、いい度胸だな。このところ連合会の野郎、勢いづきやがって、面白くなかったんだ」
 『黒玉』がアレグロさんに喧嘩を売っている。と言うかこれは喧嘩じゃなく集団リンチだ。

「首をとれ!」
『黒玉』のヘッドが命令すると同時に、黒い船たちがアレグロさんの船に向けて、ライトレーザーを撃ち始めた。
 ライトレーザーは船の電子機器を磁場で一時的に動かなくしてしまう。
 宇宙海賊への対策用に売られているのだけれど、若者がふざけて一般船に向けて撃つことが問題となっている。

 アレグロさんがライトレーザーを必死にかわしているけれど、あれだけ多数から攻められては、逃げ切れない。

「待ってろアレグロ。ティリーさん、アクセル目いっぱい踏んで! 操縦棹動かすなよ」
「は、はい」
 言われた通りにペダルを踏み、操縦桿を動かさないように握りしめる。船が加速したまま小惑星帯に突っ込んでいった。

 レイターが無線の回線を開く。
「うおおりゃあ、退散しねぇとぶっ殺すぞ!」

n27見上げる4叫ぶ後ろ目逆

 ぶっ殺すとか言わないでほしい。

 メガマンモスのエンジンが全開だ。
 急降下で身体が浮き上がる。ジェットコースターより速度も体感スピードも圧倒的に速い。その状態で小惑星のスレスレをすり抜けていく。

 どう考えてもアトラクションの乗り物より怖い。 (7)へ続く

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<出会い編>第一話「永世中立星の叛乱」→物語のスタート版
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48ノ月(ヨハノツキ)
ティリー「サポートしていただけたらうれしいです」 レイター「船を維持するにゃ、カネがかかるんだよな」 ティリー「フェニックス号のためじゃないです。この世界を維持するためです」 レイター「なんか、すげぇな……」

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