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銀河フェニックス物語 <恋愛編>ジョーカーは切られた(11)

薬物を吸入したレイターは安静にしていないと失明の恐れがあるという。
銀河フェニックス物語 総目次 
<恋愛編>「ジョーカーは切られた」まとめ読み版①  

 レイターがのんびりと伸びをしながら言った。
「な、これで俺が犯人じゃねぇってわかっただろ。俺が犯人だったらこんなドジは踏まねぇよ。ガス吸う前に退散するさ」

 まるで他人ごとのようだ。それよりも僕のほうが動揺していた。安静といってもすでに彼は結構な運動量をこなしている。

 PPPPPPPP……

 パリス警部の携帯通信機が鳴った。
「何だと!!」
 緊迫した様子に全員の視線が警部に集まる。
「わかった。応援を頼む」
 通信機を切った警部は部屋を見回しながら言った。

「ダグが……ダグ・グレゴリーが今しがたレイターの首に懸賞金を懸けて『緋の回状』を回した」

ダグ前目にやり

「えっ!」
 僕とティリーさんは声をあわせて驚いた。

「懸賞金の額は、百億リル」
「まじッスか」
 ジムが唾を飲み込む音が聞こえた。

「いい歳して、ダグも鬼ごっこが好きだよなぁ。俺が自分で行ったらその金くれるのか、聞いといてくれよ」
 レイターだけが、事の重大さを把握していないような反応だった。

「で、パリス、鬼ごっこにゃ期限があるはずだ」
「緋の回状の有効期間は三日だ」

パリス横顔口一文字逆

「ふうん。随分短けぇな。さすがにダグも百億リルは払いたくねぇらしい」
「そうッスね、十二年前は三ヶ月だったもんね」
 ジムが相槌をうった。

「ダグは一体どういうつもりなんだ」
 パリス警部がいらだっている。
「久しぶりに顔見たら、俺と遊びたくなったんだろ」
 レイターは平然とした顔で答えた。

「とりあえず、空港の東エリアは閉鎖した。ここでしばらくマフィア側の出方を待つ。本部には警備の応援を頼んだ」
「ふぅ~ん。警察が僕ちゃんを守ってくれるんだ。お手並み拝見しちゃおうっかな」
「お前は事件の重要参考人だからな。死なせるわけにはいかん」

* *

『厄病神』が発動するのはよくあることだ、それでも、ティリーはいつも以上に心配になった。
 とにかくレイターを安静にさせなくては。失明する恐れがあるのだ。この人はすぐに無理をする。
「きのうから寝てないんでしょ。少し部屋で休んだ方がいいわ」

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 わたしはレイターの手を取った。レイターは素直についてきた。

 リビングの横にある散らかり放題のレイターの部屋に入る。目の見えるわたしでも物をよけて歩くのが大変なのに、レイターは苦も無くベッドの前へたどり着いた。

「あとは、警察に任せてあなたは休んでいて」
 と自分で言いながら説得力のない言葉だと思った。レイターは銀河警察を信じていない。

 突然、レイターはわたしを強い力で引き寄せ、そして、いきなりキスをした。

ジョーカー

 強引な展開に驚いた。レイターの手がわたしの顔をまさぐる。驚いたことに指先から不安が伝わってきた。
 
 いつものレイターと違う。
 目が見えなくても全然平気だという顔をしていた。けれど、本当は暗闇の孤独といらだちが彼を覆っていたことをわたしは悟った。
 
 レイターは自分の目で確認できないわたしの存在を、肌に触れることで確かめているようだった。レイターの視覚以外の全ての感覚にとりこまれそうだ。

「あいつの顔が、見えなくてよかった」
 ぽつりとレイターがつぶやいた。
 あいつ? 目が見えないことより、それよりもっと深いところで、彼は何かに怯えている。

 わたしはレイターの顔を見上げた。
「怖いの?」

「怖い?……そうだな、あんたを巻き込みたくねぇ」
「あなた、自分で銀河中のマフィアと戦おうって考えてるんじゃないでしょうね。馬鹿なこと考えないでね。目が見えないのよ。安静にしていないと、失明しちゃうかも知れないのよ。そうだ、アーサーさんに警護を頼めば」

n31アーサー正面軍服

「この件で、アーサーは動かねぇ」
 わたしの言葉をレイターはさえぎった。マフィア対策が連邦軍の管轄外だというのはわかるけれど。
「じゃあ、どうするの?」
 わたしの声が震えていた。銀河中のマフィアがレイターの命を狙ってやってくる。警察は心もとない。彼は暗闇の中へ自ら飛び込もうとしている。

「鬼ごっこに勝てばいいのさ。目は見えなくてもキスはできる。けど、死んだらできねぇからな」

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 レイターはいつしか普段の彼に戻っていた。恐怖のかけらも感じさせない自信家の彼。ニヤリと笑いながら光の通っていない目でウインクをした。

 その時、
「不審船が接近しています」
 マザーから警戒情報が流れた。    (12)へ続く

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48ノ月(ヨハノツキ)
ティリー「サポートしていただけたらうれしいです」 レイター「船を維持するにゃ、カネがかかるんだよな」 ティリー「フェニックス号のためじゃないです。この世界を維持するためです」 レイター「なんか、すげぇな……」

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