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銀河フェニックス物語 <恋愛編>ジョーカーは切られた(24)
向かい合って立つと、ジャイアントは長身のレイターよりさらに大きかった。
・銀河フェニックス物語 総目次
・<恋愛編>「ジョーカーは切られた」まとめ読み版① ② ③
追いついたジャイアントの手下たちの船も小惑星に着陸した。警備艇はどこかでまかれてしまったようだ。
「ギャラリーも集まったところでいくぜ!」
ジャイアントがレーザーナイフでレイターに切りかかった。白い閃光が走る。低重力で動きの幅が大きい。
小型のナイフでも下手をすると宇宙服に穴が開くことがある。死に直結して危険だ。
レイターはロープを引っ張りながら間一髪でかわす。ロープの扱い一つで致命傷を負う。
「裏将軍、お前、目が見えないんだろ」
ジャイアントの嬉しそうな声が無線機から響いた。知っていて決闘を申し込んだということか。真空ではレイターが得意な音も聞こえない。
「あんたの相手なんざ『目隠し』で十分さ」
「百億はもらった!」
ジャイアントが襲い掛かる。ナイフをレイターはギリギリでよけている。
ジムが言った。
「『縛りナイフ』で良かったッスよ。目が見えなくてもロープである程度敵の居所がわかるし。レイターは『目隠しの縛りナイフ』も得意だったんス。もっともその時は相手も目隠しをするんスけどね」
そうか、だからレイターはこの決闘を受けたんだ。左手のロープの張り具合を頼りにジャイアントの攻撃を察知している。
ジャイアントは一発の破壊力も大きそうな上に、見た目より敏捷だった。
ジャイアントがロープを引っ張るとレイターの身体が引っ張られる。
ジムがつぶやいた。
「ジャイアントって馬鹿力なんスよ」
目が見えないというハンディは大きい。大丈夫だろうか。ロープに頼って防御はできるが攻めることは難しいから防戦一方だ。
しかも、ジャイアントの方がリーチが長い。蹴りがレイターに入る。決定打にはなっていないが、ダメージは受けている。
「せこせこ逃げ回りやがって」
ジャイアントがイライラしているのがわかる。レイターは一言も発しない。おそらくすべての神経を指先のロープの感触に集中させている。
「くっそ~!これで終わりだ!」
ジャイアントが突進した。
ナイフを振りぬいたその瞬間、レイターがロープを引きながら飛び上がった。ジャイアントがバランスを崩す。
レイターが上から背中に蹴りを入れ、倒れたジャイアントの首筋にレーザーナイフを突きつけた。
「悪いなジャイアント。俺、目が見えねぇからあんたの首、間違って落としても文句言うなよ。降参するなら早いほうがいいぜ」
「うっ、まだだ」
ジャイアントが必死に身体を動かそうとするが、レイターが押さえつけていて反撃できない。手足をばたつかせる赤子のようだ。低重力だというのに、大柄なジャイアントの身体をがっちり固めている。どうやっているのか。
ジャイアントの首のあたりから煙があがった。宇宙服が焦げ始めた。穴が開いたら窒息死する。というか、あの位置はそのまま頸動脈が切れる。
「俺が先を急いでるって知ってるよな」
語りかけるレイターの口調が怖い。
「……」
「こっちは緋の回状が回ってんだ。温情かけてる暇ねぇんだよ」
脅し文句だ。命は取らないはずだ。それでも、このままジャイアントを殺してしまうんじゃないかと錯覚する。
「わ、わかった。俺の負けだ」
レイターはジャイアントの身体を放し、二人の身体をつないでいたロープを切った。
「連合会には俺から連絡を入れといてやるよ」
レイターが船へ戻ろうと背を向けたその時、いきなり背後からジャイアントが襲い掛かった。
「レイター、後ろッス!」 (25)へ続く
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