
銀河フェニックス物語<恋愛編> 第四話(13 最終回) お出かけは教習船で
ふさぎこむティリーに「俺は人を乗せて飛ばすのが好きだ」とレイターは話しかけた。
銀河フェニックス物語 総目次
<恋愛編>お出かけは教習船で (1)(2)(3)(4)(5)(6)(7)(8)(9)(10)(11)(12)
<恋愛編>のマガジン
レイターは操縦士の最高峰と称えられる宇宙船レースのS1をあっという間に引退してしまった。わたしはもったいない気がしているのだけれど、S1は人を乗せて飛ばすことはない。
彼は他人の評価より自分の感性を基準として『銀河一の操縦士』を追い求めている。
「俺が操縦する船に乗って、バトルでも何でも怖がらずに一緒に楽しんでくれる、ってのが俺にとって理想の彼女なんだけど」
理想の彼女、と言う言葉が頭の中で跳ね回る。こんなダメなわたしでいいの? 顔がほてってきた。心臓がトクトク音を立て、目の奥が熱くなる。景色がにじんで見えた。
レイターの手がわたしの頭に軽く触れた。
「俺のティリーさん、かわいすぎ」
わたしはあなたの所有物じゃない。なのに何度も聞いたこの言葉がうれしい。涙がこぼれそうだ。
「もっとも、あんた宇宙船メーカーに勤めてるくせに操縦が下手すぎ。だから帰りは特訓だ!」
「ひえええぇ」
まだ操縦するの? きょうだけで一生分操縦したのに。うれし涙が悲し涙に変わった。
帰り道。レイターは頭の上で手を組んで、操縦の補正を全くしてくれなかった。
「こんなところで加速すんなっ!」
月の御屋敷まで、レイターに罵倒されながら帰った。これが、かわいすぎる理想の彼女への対応だろうか。今日の色々な恨みを晴らしているとしか思えない。
疲れた。
「ほんと、あんた銀河一操縦が下手くそだよな。ま、きょうの俺の教えで、ちっとはマシになったかな。つってもこれじゃ近場のソラ系内しか飛ばせねぇよな」
散々罵られて意地悪な気持ちが湧いてきた。
「ねぇ、レイター。ソラ系内でデートしたい場所があるの。わたしが操縦するから、今度、一緒に行ってくれる?」
「もちろんさ。どこ、行きてぇんだ?」
「海王星衛星のトリトンパーク」
「え?」
レイターの表情が石像のように固まった。
老舗の公園トリトンパークに先日、銀河最大、最速、最怖の絶叫ジェットコースターが新設されたのだ。毎日大量のコマーシャルが流れている。
レイターの顔をのぞき込んで様子をうかがう。
「わたし、新型の絶叫コースターに乗りたいのよね。もしや、レイター、怖いの?」
「怖いわけねぇだろが」
絶対、嘘だ。
「そうよね、アステロイドベルトの操縦より怖くないし、来週末にでも行こっか?」
「いや、いい。やっぱり俺が操縦する。何といっても俺は、銀河一の操縦士だからな。海王星と言わず、ソラ系の外でもどこでも連れてってやるよ。そうだ、遠出のデートをしようぜ」
レイターの取り繕う様子がおかしくて笑える。
「はいはい」
きょうはレイターにたくさん迷惑をかけたのだった。これ以上いじめては罰が当たる。
それにしても『理想の彼女』という言葉がよみがえり頬がゆるむ。
「あんた、何、ニタニタ笑ってんだよ?」
レイターが不安げにわたしを見た。何もたくらんでいないのに警戒してる。
「操縦って楽しいね」
はぐらかすようなわたしの答えに、眉をひそめたわたしの彼氏が、理想の彼女のわたしをにらみつけた。 (おしまい)<恋愛編>第五話「発熱の理由」へ続く
<出会い編>第一話「永世中立星の叛乱」→物語のスタート版
イラストのマガジン
いいなと思ったら応援しよう!
