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銀河フェニックス物語<恋愛編> 第四話(13 最終回) お出かけは教習船で

ふさぎこむティリーに「俺は人を乗せて飛ばすのが好きだ」とレイターは話しかけた。
銀河フェニックス物語 総目次
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 レイターは操縦士の最高峰と称えられる宇宙船レースのS1をあっという間に引退してしまった。わたしはもったいない気がしているのだけれど、S1は人を乗せて飛ばすことはない。
 彼は他人の評価より自分の感性を基準として『銀河一の操縦士』を追い求めている。

「俺が操縦する船に乗って、バトルでも何でも怖がらずに一緒に楽しんでくれる、ってのが俺にとって理想の彼女なんだけど」
 理想の彼女、と言う言葉が頭の中で跳ね回る。こんなダメなわたしでいいの? 顔がほてってきた。心臓がトクトク音を立て、目の奥が熱くなる。景色がにじんで見えた。

 レイターの手がわたしの頭に軽く触れた。
「俺のティリーさん、かわいすぎ」
 わたしはあなたの所有物じゃない。なのに何度も聞いたこの言葉がうれしい。涙がこぼれそうだ。

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「もっとも、あんた宇宙船メーカーに勤めてるくせに操縦が下手すぎ。だから帰りは特訓だ!」
「ひえええぇ」
 まだ操縦するの? きょうだけで一生分操縦したのに。うれし涙が悲し涙に変わった。

 帰り道。レイターは頭の上で手を組んで、操縦の補正を全くしてくれなかった。

「こんなところで加速すんなっ!」
 月の御屋敷まで、レイターに罵倒されながら帰った。これが、かわいすぎる理想の彼女への対応だろうか。今日の色々な恨みを晴らしているとしか思えない。

 疲れた。

「ほんと、あんた銀河一操縦が下手くそだよな。ま、きょうの俺の教えで、ちっとはマシになったかな。つってもこれじゃ近場のソラ系内しか飛ばせねぇよな」
 散々罵られて意地悪な気持ちが湧いてきた。
「ねぇ、レイター。ソラ系内でデートしたい場所があるの。わたしが操縦するから、今度、一緒に行ってくれる?」
「もちろんさ。どこ、行きてぇんだ?」

「海王星衛星のトリトンパーク」
「え?」
 レイターの表情が石像のように固まった。

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 老舗の公園トリトンパークに先日、銀河最大、最速、最怖の絶叫ジェットコースターが新設されたのだ。毎日大量のコマーシャルが流れている。
 レイターの顔をのぞき込んで様子をうかがう。

「わたし、新型の絶叫コースターに乗りたいのよね。もしや、レイター、怖いの?」
「怖いわけねぇだろが」
 絶対、嘘だ。
「そうよね、アステロイドベルトの操縦より怖くないし、来週末にでも行こっか?」
「いや、いい。やっぱり俺が操縦する。何といっても俺は、銀河一の操縦士だからな。海王星と言わず、ソラ系の外でもどこでも連れてってやるよ。そうだ、遠出のデートをしようぜ」
 レイターの取り繕う様子がおかしくて笑える。
「はいはい」
 きょうはレイターにたくさん迷惑をかけたのだった。これ以上いじめては罰が当たる。
 それにしても『理想の彼女』という言葉がよみがえり頬がゆるむ。

「あんた、何、ニタニタ笑ってんだよ?」
 レイターが不安げにわたしを見た。何もたくらんでいないのに警戒してる。
「操縦って楽しいね」
 はぐらかすようなわたしの答えに、眉をひそめたわたしの彼氏が、理想の彼女のわたしをにらみつけた。   (おしまい)<恋愛編>第五話「発熱の理由」へ続く

<出会い編>第一話「永世中立星の叛乱」→物語のスタート版
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48ノ月(ヨハノツキ)
ティリー「サポートしていただけたらうれしいです」 レイター「船を維持するにゃ、カネがかかるんだよな」 ティリー「フェニックス号のためじゃないです。この世界を維持するためです」 レイター「なんか、すげぇな……」

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