
銀河フェニックス物語<少年編> 第一話(9) 大きなネズミは小さなネズミ
アーサーは試しにレイターの前で「緋の回状」とつぶやいてみた。
の続きを更新しました
・銀河フェニックス物語 総目次
・「大きなネズミは小さなネズミ」まとめ読み版
(1)(2)(3)(4)(5)(6)(7)(8)
・<少年編>のマガジン
「なっ!」
思ったとおりだ。レイターはビクッと顔色を変えて固まった。
わかりやす過ぎる。
「一体君は何をしたんだい?」
「何をって、な、何がだよ」
「どうして君に十億リルの懸賞金がかけられているんだ」
レイターが警戒した様子で僕の目を見た。
「俺は何にもやってねぇ。ただ、家出しただけだ」
家出?
「君はグレゴリーファミリーの一員なのか」
「違う」
「どうもよくわからないな。今、君は家出をしたと言った。それはマフィアから足抜けしたという意味なのか?」
と自分で言いながら違和感を感じていた。こんな子どもの足抜けに高額な懸賞金が動くわけがない。
「俺はダグん家に居候してたんだ」
「君は何か組織の秘密を知っているということかい?」
「秘密? ……ああ、それで俺、命狙われてんのかなぁ。でも、金庫の暗証番号なんて変えりゃすむだろ」
彼がグレゴリーファミリーと深くかかわっていることはわかった。だが、十億リルはいくら何でも不自然だ。
レイターをこのまま地球に返す訳にはいかない。
生きていることがわかったら、マフィアの餌食になる。だが、彼を乗せておくことはこの艦のリスクにもなる。
どうやら僕は厄介な地雷を踏んでしまったようだ。
「頼む、誰にも言わねぇでくれ。もう掃除当番さぼらねぇから」
レイターが手を合わせて必死に頭を下げる。
リスク情報を上官に報告しないというのはありえない。だが、この情報を知ったらアレック艦長はどう判断するだろうか。直感で動くあの人の行動を読むのは難しい。
今、レイターは死亡扱いされ、『緋の回状』も効力を失っている。マフィアがこの艦を狙ってくる可能性はほとんどない。ほとぼりが冷めるまで、動かないのが賢明だ。
「僕は何も聞かなかったことにする」
*
たまたまその日、一緒にパトロールへでかけるはずだった僕の相手が体調を崩した。
アレック艦長は思いつきで僕に指示をした。
「トライムス少尉、レイターをパトロールに連れてってやれ」
レイターが常に機会があれば船に乗りたいと艦長にアピールを続けていたからだ。
やりたいことを口にすれば実現する、というのはどうやら本当らしい。レイターの粘り勝ちだ。
「うわぁい宇宙船だ」
大はしゃぎするレイターを僕は冷ややかに見た。
無人小惑星帯の見回り。ゲリラや犯罪組織が拠点を作らないように定期巡回している。
僕が小型船の操縦棹を握り、彼は普段着のTシャツで隣の助手席に座った。
「なあなあ、俺にも操縦させてくれよ。俺はあんたよりうまいぜ。安心して任せろよ」
レイターがしつこくてイライラする。大人に対する態度とはまるで違う。
僕はシミュレーター訓練を見て疑問に思っていたことを聞いてみた。
「君は本物の船を操縦したことあるのか?」
「ああ、ダグを乗せてよく出かけたぜ」
やはりそうか。あの操縦感覚はゲームセンターで身に着けたものじゃなかった。
「君は『裏社会の帝王』の操縦士を務めていたのかい?」
「ダグのお抱えパイロットにちょくちょく代わってもらってたんだ。だからさあ、なあ、ちょっとでいいんだよ、ちょっとで。操縦桿を握らせてくれよぉ」
マフィアにとって無免許操縦は問題にならないのだろう。
シュミレーターを操る様子からは、かなりの技術があるように見えた。確認してみたいという興味はあるがここは公道だ。
「無免許の人間に操縦させるわけにはいかない」
「ったく、坊ちゃんのくせにケチな野郎だぜ」
とレイターは舌打ちした。
ケチな野郎とは、こういう時に使う言葉なのだろうか。自分のことを指されているとは思えないのに腹は立った。
*
小惑星帯を抜け、帰ろうとした時だった。
PPPPPPP…
突然、警報音が鳴った。
突然、小惑星の重力場に捕らえられた。
「人工重力か」
「こいつは宇宙海賊の手口だぜ」
気が付くとレイターは僕の腰につけたホルスターから銃を抜き取っていた。 (10)へ続く
裏話や雑談を掲載したツイッターはこちら
・第一話からの連載をまとめたマガジン
・イラスト集のマガジン
いいなと思ったら応援しよう!
