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銀河フェニックス物語<少年編> 第十五話(10) 量産型ひまわりの七日間
銀河フェニックス物語 総目次
<少年編>第十五話「量産型ひまわりの七日間」(1) (2) (3) (4) (5) (6) (7) (8) (9)
<少年編>マガジン
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「へぃ、いらっしゃい」
俺はいつもの通り食堂で働いていた。
モリノ副長が入ってきて列に並んだ。心臓がドクンと音を立てる。
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『何があっても普段と変わらずにいろ。そうすれば生き残れる』ダグの声が耳の奥で響く。明るく副長の顔を見る。
「今日のおすすめはトマト煮だよ」
「それをもらおう」
「あいよ」
少し勢いをつけてよそう。想定通りに皿の縁に真っ赤なトマトソースがはねた。拭うためのナプキンを右手に取る。
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同時にポケットからカプセルを取り出し握り込んだ。大丈夫だ。ここは防犯カメラの死角になっている。誰にもばれない。一滴たらせばそれで終わりだ。
赤いトマト煮が血の記憶を呼び覚ます。
*
あの日、俺は雑踏にいた。
背後から近づいて正確に刺せ。とダグが俺にレーザーナイフを渡した。
「教えた通りに仕事をすれば、相手は刺されたことにしばらく気づかない。銀河一の操縦士を目指すお前ならわかるだろ。仕事を成す上で正確さがどれほど大切なことか」
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ダグのボディガードのブレイドから手順を教わった。三次元仮想空間の中でシミュレーションを繰り返す。刃渡十五センチのレーザー刃をどこからどの角度で刺せばいいか。
「現実は訓練とは違う。だが、何があっても普段と変わらずにいろ。そうすれば生き残れる」
とダグに送り出されて、俺は休日の繁華街へと向かった。
ターゲットの男は派手な服を着た女のショッピングに付き合っていた。人が溢れかえる夕方の交差点。男の背後に立つ。歩行者シグナルが変わり人の波が動き出した。流れに合わせて歩き出す。
息ってどうやって吸うんだっけ。喉の奥に黒い大きな氷が詰まっているようだ。
目の前のビルの広告モニターが六時を告げる3D映像を流しはじめた。巨大な一輪の花の蕾が立体的に街の上空へ飛び出してきた。時報に合わせて美しく開いていく。人々の目が吸い寄せられるように上を向く。
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今だ。俺はレーザーナイフを突き刺した。グニュっとした感覚。訓練とは違う。内臓が壊れていくことが手から伝わる。
『現実は訓練とは違う。だが、何があっても普段と変わらずにいろ』
細いレーザー刃を解除する。出血はない。男は刺されたことにも気づかず歩いている。
吐きそうだ。こらえようと顔を上げる。群衆が見ている広告モニターが目に入った。真っ赤な薔薇が夕空に浮かぶように咲き誇っていた。
どうやってダグん家に戻ったのか覚えていない。けれど、ダグに言われた通りに普段と変わらずにいたのだろう。俺は生き延びた。ダグが笑顔で俺を迎え入れた。
「よくやった。さすが俺の息子だ」
そう言いながら俺をハグした。ニュースが聞こえる。
『宝石店で倒れ死亡したのは不動産業の男性です。一緒にいた女性は被害者がどこで刺されたのか、全くわからないと警察に話しているということです』
吐きそうな気配がぶり返す。疲れ切った俺はダグの腕に身体を任せた。
「お前に褒美をやる。S1機に乗せてやる」
「え?」
「お前ならできると思ったから、ナセノミラのコースを借り切っておいたんだ」
ダグがうれしそうに笑った。念願のS1機に乗れる。しかもレース場で。脳みそが興奮してはち切れそうだ。ダグの手から伝わる体温が俺の中の黒い塊を浄化していく。
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『現実は訓練とは違う。だが、何があっても普段と変わらずにいろ』
そうだ、そうすれば生き残れる。これまでだってそうだった。
俺は手にしたカプセルの感触を再度確かめた。
(11)へ続く
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