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銀河フェニックス物語 <恋愛編>ジョーカーは切られた(10)

レイターは「グレゴリーファミリーに入っていたことはない」とティリーに伝えた。
銀河フェニックス物語 総目次 
<恋愛編>「ジョーカーは切られた」まとめ読み版 

「お願い。その話、詳しく聞かせて」

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 ティリーさんが頼んだ。僕も興味がある。

 レイターは仕方ないという顔をして、淡々と話し始めた。
「俺とジムはガキん頃、ダグんの近所に住んでたんだ。ジムの兄貴がファミリーの構成員だったから、ちょくちょく出入りしててさ、俺のおふくろが死んだあとは飯を食わせてもらったりしてたんだ」
「ダグんちの料理はうまくて、おいらたち餌付けされたんッスよね」
「ジム、その言い方やめろ」
 不機嫌そうなレイターとは対照的に、ジムは歯を出して、にかっと笑った。

「レイターはすごいんスよ。何やらせても天才で、確かにレイターはファミリーの構成員じゃなかったッスけど、ダグから銃の撃ち方も教えてもらったし、パリスの親父を出し抜いて盗みとかいっぱいやったスよね」
 それでパリス警部は彼のことをよく思っていないのか。 

9笑い

「ジム、あんた、マーシーが刑事デカってわかってるか?」
「もう時効ッスよ」

 ティリーさんが不安げな表情を深める。
 ジムは随分とおしゃべりだった。心酔しているレイターのことを話したくて仕方がないようだ。

「ダグにはジェフっていう、おいらたちとタメの一人息子がいたんスけど、昔、学校へあがる前に殺されたんッスよ。だから、ダグは家族がいないレイターを養子にしようとしたんッス。そしたら、もったいないことに、こいつ逃げちゃって」
「あの家にいたら『銀河一の操縦士』になれねぇだろが」

 ダグ・グレゴリーは本気でレイターを跡取りとして育てるつもりだったのだ。

「で、ダグは逃げたレイターを捕まえろって、十二歳のレイターに十億リルの懸賞金を懸けたんッスよ」

ジム1笑顔

「十億リル?」
 ティリーさんが目を丸くしている。

「すごいッスよね。ダグがレイターを殺せって『緋の回状』を回した時はいくらレイターでも、もうダメだと思ったッスよ」
 ティリーさんが眉をひそめてジムに聞く。
「『緋の回状』って何ですか?」

緋の回状

「ダグが銀河中のマフィアに出すお触れのことッス。レイター殺せば十億もらえる、ってんで、街中が戦争状態になって。おいらはレイターが死んだ日のことを昨日のことのように覚えてるッスよ」
「レイターが死んだ日?」
「レイターが隠れてた宇宙港の倉庫で爆発事故が起きたんッス。レイターが死んだと思って、みんな泣いたんスよ」
「喜んでだろ」
 とレイターは笑った。

 パリス警部から聞いた話とほとんど同じ内容だった。レイターの死によって、第三次裏社会抗争が終結。街の人々が歓喜したという話。

「おいらだけは本気で悲しんだんッスよ。あのダグですらレイターのこと死んだと思ってたんス。けど、レイターは生きてた。不死鳥のレイターっスよ。それだけじゃなく、十六で帰ってきた時、スペンサーをこてんぱんにやっつけたじゃないッスか。ダグはその時、大喜びしたんスよ」

n41トレス

「何でダグが知ってんだよ。全員に口止めしたじゃねぇか」
「おいらが言ったんス」
「マジかよ、絞めるぞ」

 これが、パリス警部が話していた手打ちの話か。

「レイター、絞めるとか言わないで!」
 ティリーさんがむっとしている。彼女は至極真っ当な感性の持ち主だ。きちんと育てられている様子が目に浮かぶ。

 レイターが深いため息をついて頭を抱えた。

横顔 頭抱え

 他人の恋愛にとやかく言うつもりはないが、どうしてこの二人が付き合っているのか不思議だ。

 部屋の外で捜査本部と連絡を取っていたパリス警部が慌てた様子で戻ってきた。
「レイター、医師からの伝言だ。安静にしていないと失明の恐れがあるそうだ」
「え? えええっ?!」
 大きな声をあげたのはティリーさんだった。   (11)へ続く

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48ノ月(ヨハノツキ)
ティリー「サポートしていただけたらうれしいです」 レイター「船を維持するにゃ、カネがかかるんだよな」 ティリー「フェニックス号のためじゃないです。この世界を維持するためです」 レイター「なんか、すげぇな……」

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