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銀河フェニックス物語 <恋愛編> 第六話 父の出張(13)
元カレのアンドレがテニスコートからティリーに声をかけた。
銀河フェニックス物語 総目次
<恋愛編>第五話「父の出張」① ② (12)
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毎日会っていた頃より彼の背は高くなっていた。整った顔立ちはそのままで、精悍な男性に成長している。
「あん?」
レイターがわたしに視線を投げかけた。
どう説明をしようか考えている間に、ママがフェンスの向こうに手を振った。
「あら、アンドレ君」
「あ、お母さん、お父さんもご一緒でしたか。ご無沙汰しています」
コートの出入口からスコート姿の女性たちが飛び出してきた。
「ティリー!」
先頭は女子部のキャプテンだったリオだ。面倒見のいい明るい声。変わってない。
「やだ、ティリー、帰ってきてるなら連絡してよ」
学生時代のテニス仲間たちだった。みんなテニスを続けていたんだ。健康そうに日焼けしている。わたしはリオと肩を抱き合った。
「リオ、元気だった?」
「それはこっちのセリフよ。ティリーったら、めったに帰ってこないんだから」
「あら、こちらは?」
リオが隣のレイターを見た。
「もしかしてティリーの彼氏?」
「う、うん」
うなずいた瞬間、フェンスの向こうのアンドレがこちらを見た気がした。
「どうもぉ、銀河一の操縦士レイター・フェニックスです」
レイターがいつも女性にするようにリオの手をうれしそうに握った。
「いやあ、こんなに素敵な女性のみなさんがティリーさんの知り合いとは。もっと早く教えてくれよ」
次々と握手をしていく様子にみんなが噴き出した。まったく、このお調子者ったら。
リオがレイターの顔をまじまじと見つめる。
「この人S1レーサーで、エースのライバルじゃないの?」
「ちっち、ライバルでも何でもねぇよ。俺のがいい男だ」
また、みんなが笑った。見慣れた普段通りのレイターだ。
背後からパパの不機嫌そうなつぶやきが聞こえた。
「あいつは、女性相手に何をおちゃらけとるんだ」
「楽しそうですよ。きっとどこでも人気者なのね」
ママのフォローに感謝する。
リオがわたしの手を取って誘った。
「ねえ、ティリー。ちょっとだけテニスやろうよ。クラブハウスで一式レンタルできるから。彼氏も一緒にどう?」
「えっと……」
久しぶりにみんなと遊びたい気持ちが湧きあがる。けれど、きょうはパパにレイターを彼氏として認めさせる、というミッションがある。
迷えるわたしの背中をレイターが押した。
「ティリーさん、あんた久々にテニスやりたいんだろ。別に予定もねぇし、やったらいいんじゃねぇの。運動不足を解消したほうがいいぜ」
「レイターもやるでしょ?」
「俺はテニスは好きじゃねぇから、そこで見てるさ」
とレイターはコート脇のベンチへと向かった。珍しい。運動神経抜群の彼のことだ、テニスぐらいできてもおかしくないのに。
振り向いてパパとママの様子をうかがう。
「私たちも構わないわよ、ねえお父さん。久しぶりにティリーのテニスを見ましょうよ」
「じゃあ、決まりね。ティリー、借りま~す」
リオがわたしの手を引いた。
「ちょっとだけ、行って来るね」
とレイターに手を振った。
クラブハウスに入ると目の前のリオが興奮している。
「ティリー、ちゃんと説明してよ。推しのエースの会社に就職するからってアンドレと別れたんじゃないの?」
「う、うん。そうだったわね」
「で、どうしてエースのライバルと付き合ってるわけ?」
「それはいろいろとあって、一言じゃ説明できないわよ」
「彼氏と元彼が遭遇するなんて、普通は修羅場だよぉ」
「関係ないわよ。アンドレとは終わってるんだから」
と口にしてチクリと胸が痛んだ。
彼氏だったアンドレに何の相談もせずにソラ系へ出ていくことを決めた。当時は自分のことで精いっぱいで、そのことが彼を傷つけていたことにわたしは気が付かなかった。社会人になって同級生のキャロルから聞いて初めて知った。
だからと言って、笑顔で送り出してくれたアンドレに今更謝るのも失礼な気がする。
「ふぅ~ん。じゃあ問題ないか」
リオは学生時代から変わらない。アンドレと付き合うことになった時も根掘り葉掘り聞かれたことを思い出した。 (14)へ続く
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<出会い編>第一話「永世中立星の叛乱」→物語のスタート版
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