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銀河フェニックス物語 <ハイスクール編> 第二話 花咲く理論武装(2)
・<出会い編>第一話から連載をまとめたマガジン
・<ハイスクール編>第一話「転校生は将軍家」マガジン
・<出会い編> 第二話 (1)
「へーき、へーき。とりあえず植え方を教えてくれよ」
レイターは勝手に苗を手に取った。
フローラの周りに、こうした軽い雰囲気の人はいない。どうやって断っていいのかわからず、やり方を簡単に伝えた。
すると、彼はみるみるうちに植えていった。
速い。
急ぐ必要はないと言ったのに・・・。
植え直さなくちゃいけないかも知れない。
フローラはため息をつきながら、レイターが植えた場所へ向かった。庭師のアンダーソンが後に続く。
苗を見て驚いた。きちんと植わっている。
「ほぉ。あいつ、思ったより仕事が丁寧だ」
アンダーソンがつぶやいた。
軽い見た目とは裏腹に、レイターの作業は雑ではなかった。
「お~い、どうかしたか?」
レイターが遠くから声をかけた。
「何でもありません」
こんなに大きな声を出すのは久しぶりだ。
アンダーソンが少し驚いた顔をした。
レイターが戻ってきた。
「終わったぜ」
器用な人だ。レイターが手伝ってくれたおかげで、あっという間に予定していた苗を植え終えてしまった。
アンダーソンがわたしにたずねる。
「お嬢様、きょうはこれで終わりにしますか?」
「ええ、そうしましょう」
「では、片づけて参ります」
水やりのホースを束ねながら、アンダーソンがそばを離れた。
「あんたすごいな。この花壇、みんなあんたとアンダーソンで手入れしてんの?」
レイターが花園を見渡しながら言った。
「ええ」
「俺、花とか生き物とか育てたことねぇから、感心するぜ」
「あなたも、とてもお上手です」
「そうかい?」
レイターは褒められてうれしそうな顔をした。
技術的に優れているだけではない。この人の所作からは、命を慈しむ誠意が伝わってくる。花たちがそれを感じているのがわかる。
次の瞬間、
目の前が急に暗くなった。発作だ。
息が苦しい。アンダーソンを呼ばなくては・・・。
「おい! あんた大丈夫か? おいっ!!」
レイターの声が遠くに聞こえる。
ぼんやりと意識が戻ってきた。
温かい息が、唇を通して身体に吹き込まれている。ほのかにペパーミントの香りがする。
ゆっくりと目を開けると、心配そうにわたしを見つめるレイターの顔が眼前にあった。
「気がついたか?」
わたしは状況がよくわからないままうなづいた。気を失っていたのはわずかな時間だ。
「ああ、よかった」
わたしの身体を支えながら、レイターはほっとした顔をした。
唇が熱い。
「あんた、急に呼吸止まって倒れるんだもん。びっくりしたぜ」
彼がわたしにマウスツーマウスで人工呼吸をしてくれた、ということに気が付いた。
恥ずかしさに、顔が火照る。
レイターは軽々とわたしの体を横抱きに抱き上げた。
「あんたが発作を起こすとは聞いてたけど、一つ間違ったら俺、アーサーに殺されるところだった。救命士の資格とっててよかったぜ」
お礼を言わなくてはいけないのに、混乱している。言葉が見つからない。
胸の動悸が速くなった。これは病気のせいじゃない。
「お嬢様!」
アンダーソンが駆け寄ってきた。
「大丈夫ですか? お薬は?」
手首のブレスレットに入ったままだった。
「もう、落ち着きました」
「何だ、あんた、そんなところに薬持ってたのか」
薬を飲まずに発作がおさまったと知って、アンダーソンは不思議そうな顔でわたしを見た。
レイターはわたしの耳元でこっそりささやき、ウインクした。
「知らなかったおかげで、得しちゃったぜ」
レイターの唇の感触が頭の中で再現される。フローラは身体中が熱を帯びていくのを感じた。 (3)へ続く
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