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銀河フェニックス物語 <ハイスクール編> 第二話 花咲く理論武装(2)

<出会い編>第一話から連載をまとめたマガジン 
<ハイスクール編>第一話「転校生は将軍家」マガジン
・<出会い編> 第二話 (1

「へーき、へーき。とりあえず植え方を教えてくれよ」
 レイターは勝手に苗を手に取った。 
 フローラの周りに、こうした軽い雰囲気の人はいない。どうやって断っていいのかわからず、やり方を簡単に伝えた。

 すると、彼はみるみるうちに植えていった。

 速い。
 急ぐ必要はないと言ったのに・・・。
 植え直さなくちゃいけないかも知れない。

 フローラはため息をつきながら、レイターが植えた場所へ向かった。庭師のアンダーソンが後に続く。
 苗を見て驚いた。きちんと植わっている。

「ほぉ。あいつ、思ったより仕事が丁寧だ」
 アンダーソンがつぶやいた。
 軽い見た目とは裏腹に、レイターの作業は雑ではなかった。

「お~い、どうかしたか?」
 レイターが遠くから声をかけた。

「何でもありません」

n202フローラ正面ピンク口開け

 こんなに大きな声を出すのは久しぶりだ。
 アンダーソンが少し驚いた顔をした。


 レイターが戻ってきた。
「終わったぜ」
 器用な人だ。レイターが手伝ってくれたおかげで、あっという間に予定していた苗を植え終えてしまった。

 アンダーソンがわたしにたずねる。
「お嬢様、きょうはこれで終わりにしますか?」
「ええ、そうしましょう」

「では、片づけて参ります」
 水やりのホースを束ねながら、アンダーソンがそばを離れた。

「あんたすごいな。この花壇、みんなあんたとアンダーソンで手入れしてんの?」

15ハイスクール1ネクタイなし

 レイターが花園を見渡しながら言った。
「ええ」

「俺、花とか生き物とか育てたことねぇから、感心するぜ」
「あなたも、とてもお上手です」
「そうかい?」
 レイターは褒められてうれしそうな顔をした。

 技術的に優れているだけではない。この人の所作からは、命を慈しむ誠意が伝わってくる。花たちがそれを感じているのがわかる。


 次の瞬間、
 目の前が急に暗くなった。発作だ。

 息が苦しい。アンダーソンを呼ばなくては・・・。
「おい! あんた大丈夫か? おいっ!!」
 レイターの声が遠くに聞こえる。


 ぼんやりと意識が戻ってきた。
 温かい息が、唇を通して身体に吹き込まれている。ほのかにペパーミントの香りがする。

 ゆっくりと目を開けると、心配そうにわたしを見つめるレイターの顔が眼前にあった。
「気がついたか?」
 わたしは状況がよくわからないままうなづいた。気を失っていたのはわずかな時間だ。

「ああ、よかった」
 わたしの身体を支えながら、レイターはほっとした顔をした。

 唇が熱い。

「あんた、急に呼吸止まって倒れるんだもん。びっくりしたぜ」
 彼がわたしにマウスツーマウスで人工呼吸をしてくれた、ということに気が付いた。

 恥ずかしさに、顔が火照る。 

 レイターは軽々とわたしの体を横抱きに抱き上げた。
「あんたが発作を起こすとは聞いてたけど、一つ間違ったら俺、アーサーに殺されるところだった。救命士の資格とっててよかったぜ」

フローラお姫様抱っこバックなし赤面

 お礼を言わなくてはいけないのに、混乱している。言葉が見つからない。
 胸の動悸が速くなった。これは病気のせいじゃない。

「お嬢様!」
 アンダーソンが駆け寄ってきた。
「大丈夫ですか? お薬は?」
 手首のブレスレットに入ったままだった。

「もう、落ち着きました」
「何だ、あんた、そんなところに薬持ってたのか」
 薬を飲まずに発作がおさまったと知って、アンダーソンは不思議そうな顔でわたしを見た。

 レイターはわたしの耳元でこっそりささやき、ウインクした。
「知らなかったおかげで、得しちゃったぜ」

14レイターシャツウインク@逆

 レイターの唇の感触が頭の中で再現される。フローラは身体中が熱を帯びていくのを感じた。     (3)へ続く

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ティリー「サポートしていただけたらうれしいです」 レイター「船を維持するにゃ、カネがかかるんだよな」 ティリー「フェニックス号のためじゃないです。この世界を維持するためです」 レイター「なんか、すげぇな……」