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銀河フェニックス物語<少年編>第十三話 銀行までお出かけしたら(2)
アレキサンドリア号に戻ってきたレイターは銃で撃たれ怪我をしていた。
銀河フェニックス物語 総目次
<少年編>第十三話「銀行までお出かけしたら」 (1)
<少年編>マガジン
レイターが艦に帰ってこなければ全ては丸く収まったのだ。彼がどこで何をしようと僕には関係ない。ゆっくりと息を吐く。
だが、帰ってきてしまったからには放っておくわけにいかない。僕は彼の教育係だ。
内線で医療兵のジェームズ少尉に連絡をいれた。
「ジェームズ。お手数かけますが、他の人に見つからないように野外戦闘用の救急パックを僕の部屋へもってきてもらえませんか?」
ジェームズは部屋に入るなり声をかけた。
「レイター、怪我したのか? 大丈夫かい?」
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僕はそのとき初めてレイターに「大丈夫か」と声をかけていなかったことに気づいた。
「相変わらず散らかってるなぁ」
ベッドの上段をのぞき込んだジェームズがあきれている。プラモデルや漫画本が散乱する中に、シャツを脱がせたレイターが埋もれていた。
「僕が治療するよ」
というジェームズを制して、僕は片手でつかめる救急パックを受け取った。
「僕がやります」
プロである医療兵の手を煩わせるのは申し訳ない。指導係である自分の責任だ。
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階段に足をかけ、レイターの身体を手前に引き寄せた。全身が熱を持っている。化膿させないことが大切だ。
救急パックからピストル型の縫合装置を取り出す。
銃口の部分を傷口にあてて引き金を引くと、人工皮膚でできた糸が圧力で縫い合わせていく仕組みだ。訓練で人型ロボに対して使用したことがある。
僕はレイターが大声をあげないように素早くタオルを口に詰めて、縫合装置に内蔵されている消毒液を傷口に吹きかけた。
「ふぐっ……」
痛みでレイターの身体が一瞬のけぞるように動く。左手でレイターの軽い身体を押さえつけた。銃口そっくりな縫合装置の先端をあてて引き金を引く。
「あっ」
ジェームズが何か言おうとする声が聞こえた。
カシャン。その前に僕の手は動いていた。傷口に沿って即座に五ミリ間隔に引き金を引いていく。
カシャンカシャンカシャン……。
消毒から五秒程度で傷口は縫い合わさった。その上に皮膚の再生シートを張り付ける。手順に問題はないはずだ。
レイターの口からタオルをはずすと彼の首がガクンと垂れた。
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振り返ってジェームズの顔を見た。
「問題がありましたか?」
「いや、完璧だ。僕より手際がいい。ただ……」
「ただ?」
「これを習ったのは前線の救護訓練だろ?」
「ええ」
僕はうなづいた。
「今ここは前線じゃない」
ジェームズは救急パックから注射器を取り出すと、慣れた手つきでレイターに痛み止めを投与した。
その様子をただ僕は見ていた。訓練時の設定は薬品も底をつき一刻一秒を争う切迫した状況だった。今は違う。救急パックに常備されている麻酔薬を注入してから治療に当たるべきだった。なぜそんな基本的なところを自分は見落としたのだろう。
「アーサー、気にすることはないよ。前線の応急処置としては教科書通りの満点だ。君の鮮やかな手さばきに僕も声をかけるの忘れて見とれてた。君なら、外科医でもやっていけるよ」
レイターの脈をとりながらジェームズは軽い調子で言った。
「大丈夫、傷は深くないから一晩寝ればすぐ元気になるさ。目が覚めたら化膿止めだけ服用させてやってくれ」 (3)へ続く
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