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銀河フェニックス物語<少年編> 一に練習、二に訓練 (最終回)
銀河フェニックス物語 総目次
<少年編>マガジン
バルダンは、レイターの目の前に人差し指を立てた。
「いいか、耳の穴かっぽじってよく聞けよ。一に練習、二に訓練、三、四が無くて、五に鍛錬だ」
「はあ? 秘密の技とかじゃねぇのかよ」
レイターはがっくりと肩を落とした。
「お前、今回、たまたま、床に砂があったから善戦したが」
レイターが手を振りながら遮った。
「たまたまじゃねぇよ。地上戦の訓練だ、ってわかっていたから行ったんだ」
「ほう、策士だな。だが、もうあの目つぶしの手は使えんぞ」
「わかってるよ。あの一回に賭けてたんだ。俺は、アーサーの動きを裏の裏まで見切ってた。全部想定の範囲内だった。だけど、勝てなかった。・・・あいつ、強かった」
レイターが唇を噛み締めた。
相手の強さを認めることのできる奴は強くなる。こいつは面白い。
「ふむ、お前、最後よくアーサーの首を引っ掻いたな」
「蹴りをはずした後のことは、無我夢中でよく覚えてねぇ」
意識せずに敵の首を狙った、ということか。こいつ、急所を身体で覚えていやがる。
「お前の攻撃はめちゃくちゃなようで無駄がない。一体どこで覚えた?」
「あん? 街だよ」
レイターがマフィアで荒れた街の出だとは聞いていた。
笑って見ていた隊員たちのうち、何人が気付いただろうか。
こいつからほとばしる殺気に。
命ギリギリの喧嘩、ってヤツを俺は久しぶりに思い出した。
レイターをきちんと鍛えてやりたい。
「お前が、街の喧嘩で使わないというのなら、アーサーを蹴れるように俺が教えてやる」
「ほんと? お願いします」
「あとで訓練場へ来い」
「アイアイサー!」
レイターは大げさに敬礼をした。
* *
「逃げるな、アーサー。俺が相手だ」
レイターがまた、僕に突っかかってきた。
彼の突きや蹴りが、日に日に良くなっているのがわかる。レイターは空き時間を利用して、バルダン軍曹に戦闘格闘技を基礎から教えてもらっていた。
僕を倒すためにだ。
興味のあることには執念を燃やす。あまりにも彼らしい。
艦内では隊員たちの間で、彼が僕を蹴ることができるか、賭けが行われているようだ。
レイターは、パワーも持久力もないが、自分の思った通りに身体を動かす、という能力に長けていた。
柔らかい身体を器用に操る。動きが正確だ。
加えて、生きるか死ぬかという修羅場で身につけた、動物的な勘が恐ろしく鋭い。
ある日、廊下ですれ違いざま、レイターが突然、蹴りかかってきた。
僕はすんでのところでよけたが、彼の足先が、僕の軍服を汚した。
レイターは「ちっ」と悔しそうな顔をして、僕から離れていった。
僕は服の汚れを払いながら、嫌な予感に襲われた。狭い廊下で逃げ場が限られていたということはあるが、蹴りの伸びが想定以上の速さだった。
レイターはこのところ指数関数的に急成長している。
一方で、完成系に近い僕の成長曲線はほとんど止まっている。
グラフを重ね合わせると、いつか彼に蹴られる日が来てもおかしくない。
いや、正規の軍人である僕が負けるわけにはいかない。僕は将軍家の人間なのだ。
戦闘格闘技の訓練に自然と身が入る。
バルダン軍曹が笑った。
「いいなあ、同い年のライバルがいるっていうのは」
僕ははっきりと否定した。
「レイターは僕のライバルではありません」
軍曹は間違っている。
ライバルとは同程度の能力を持ち、共に切磋琢磨する相手のことを言うのだ。
と考えたところで、頭がフリーズした。
レイターの現在の能力は、僕よりはるかに劣っている。
だが、潜在的に持つ才能には、計り知れないものがあった。
そんなレイターに追いつかれたくないと研鑽する自分の姿は、彼をライバル視し、切磋琢磨していると言えるのではないだろうか。
そのことに気づいた時、僕は自分で自分に愕然とした。 (おしまい)
<出会い編>第三十二話「キャスト交代でお食事を」へ続く
<出会い編>第一話「永世中立星の叛乱」→物語のスタート版
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