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銀河フェニックス物語<少年編> 第一話(2) 大きなネズミは小さなネズミ
アーサーはアレクサンドリア号に密航者がいるのではないかと疑い、厨房に隠しカメラを仕掛けた。
・銀河フェニックス物語 総目次
・「大きなネズミは小さなネズミ」まとめ読み版
・<少年編>のマガジン
二日後。僕はアレック大佐に艦長室へ来るように呼ばれた。
部屋の中には艦長とザブリートさんがいた。
「大きなネズミが出た」
ザブリートさんの報告に僕は少し緊張するとともに、正体の見えない不安が消えていくのを感じた。
アレック艦長が僕の肩をたたきながら言った。
「アーサー、お前の言うとおりだったな。もっとちゃんと天才少年の言うことは聞いておけばよかった」
隠しカメラに何者かが映っていた。ザブリートさんが食材チェックのために食料庫へと消えた直後のことだ。積んであったリンゴを盗る手が映っている。用心深い奴だ。手しか見えない。カメラの死角のどこかから来てどこかへ消えている。
「うちの乗組員じゃない」
アレック艦長の言うとおりだ。隊員だったら、隠れてリンゴを盗る必要などない。
「ひっとらえてやる」
アレック艦長の目が怒りに燃えていた。
*
このネズミはザブリートさんが食材チェックに出かけたあとを狙ってくることがわかっている。そこに罠を仕掛けることにした。
揚げたてのコロッケを調理台の上に目立つように置くと、ザブリートさんはいつものように食料庫へと入っていった。
厨房には僕を含め五人が隠れている。僕たちは息をひそめて調理台を見つめた。
入口はあえて開けてある。その外に五人が待機している。これでもうネズミは逃げられないはずだ。
かさっ。
気配がした。
入口じゃない。一体奴はどこから来たのだろう?
そんなことを考える間もなく、コロッケに手が伸びるのが見えた。
今だ! 僕たちは飛び出した。
が、誰もいない。そんなバカな。
「ダストシュートだ!」
僕は叫んだ。
向かいの調理台の下に生ゴミ用のダストシュートがあった。追いかけようにもこの小さなダストシュートには身体が入らない。ネズミは、ここを上ってきたのか。
「緊急配備だ!」
アレック艦長が命令を出した。
ダストシュートがつながっている廃棄物処理室に向かう。処理室の入口の鍵が開けられていた。間違いない、ネズミはここから逃げた。僕たちの動きに気が付いたな。施錠せずに逃げている。だが、どこへ?
「艦長、全員に耐熱宇宙服を着装させてください。熱探査します」
「了解」
つい、昔の癖で、上官であるアレック大佐に指示を出してしまった。誰も気が付いていないことを祈る。
体温関知の熱センサーにネズミが引っかかった。艦橋の監視データが腕につけた通信機に共有される。艦内図に赤い点滅が光る。
天井に張り巡らされたエネルギー配線の溝の中だ。随分狭い空間だ。小柄なリゲル星人の可能性があるな。
追いかけるより足止めしたほうがいい。
「艦長、配線溝に睡眠ガスを注入してよろしいでしょうか?」
今度は進言という形をとる。
「よし、やれ」
配線溝パネルから即効性の睡眠ガス弾を撃つ。
赤い点滅の動きが止まった。アレック艦長がうれしそうに言った。
「よしよし、ネズミを捕獲しろ」
ネズミがいるのは予備倉庫の天井あたりだ。白兵戦部隊のバルダン軍曹と共に向かう。
熱センサーを監視していた艦橋から思わぬやりとりが聞こえてきた。
「か、艦長、ネズミが消えました」
「何?」
通信機から赤い点滅が消えていた。 (3)へ続く
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