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銀河フェニックス物語<裏将軍編>最後の最後は逃げるが勝ち(7)

銀河フェニックス物語 総目次
裏将軍編のマガジン
・最後の最後は逃げるが勝ち(1)(2)(3)(4)(5)(6

 何が起きたのかわからなかった。

 突然、目の前に突風教習船が現れた。何もないところからイリュージョンマジックで船が飛び出したかのようだった。 

 すぐに現状を認識した。抜かれたのだ。裏将軍に。

 超加速だ。渦巻きの力を推力に転換したのか。理論的にはあり得る。だが、それを、このバトルのぶっつけ本番でかましてくるとは。
 何て奴だ。

 このまま負けるわけにはいかない。
 まだ、仕掛けて抜くポイントはいくつもある。自分はわかっている。ウエスタン帯を知り尽くしているのだ。

ノーザンダ

 それにしても、前を行く裏将軍は、なんと隙の無い飛ばしをするのか。

 最短ルートのようでいて、絶妙にタイミングをずらしている。そのせいで、自分が追い抜こうとする最適ポイントが上手く生かせない。

 裏将軍の操縦が、スタート時から変わってきている。
 進化だ。飛ばしの切れが増す。
 不慣れだった左教官席を、今この東西統一バトルの舞台で自分のものにしている。

18クロノス1前目真面目

 不死鳥が飛ぶが如く、この一か月の不調を塗り替える飛ばし。これが、裏将軍本来の姿か。

「気圧されるな」
 先輩たちの声が聞こえる。

「ノーザンダ、お前がここウエスタン帯で負けることはない。愚直なまで飛ばし込んできたことを思い出せ」
 仲間の後押しと応援が俺には聞こえる。

 自分のタイムは落ちていない。いや、むしろ裏将軍に引っ張られて伸びている。


 最後の間欠泉小惑星NP18。ここが勝負所だ。
 気体の噴出が強い難所。
 空間気流を利用して、追い越しをかける。先ほど抜かれたお返しだ。やられたまま終わりはしない。

 噴出パターンはつかんでいる。これまで何千回と飛んできたのだ。俺は読み切った。
 飛び出して、エンジン最大噴射。気流に乗る。いける。抜き返す。

 と、突然、機体のバランスが崩れた。なぜだ、流れがおかしい。乱気流か。

 目の前を飛ぶ裏将軍の機体を見て目を見張った。
 バカな。
 突風教習船が背面飛行している。自分が飛び出すのと同じタイミングでくるりと半回転していた。

 これまで感じたことのない流体の動き。圧力抵抗が増加している。加速しているのに前へ進めない。

 裏将軍は、ここで自分が追い越しをかけることを見越して、ブロックしてきた。自分は空間気流を何千回と飛んできたが、こんな飛ばしは始めて見た。

 天才だ。目からうろこが落ちた。

 体勢を整えた突風教習船が、自分の前でゴールを切る。

フェニックス星空

 文句の付けようがない。完敗だ。
 自分が積み上げてきた努力と経験を、裏将軍は才能で一気に上書きした。

 自分の敗退は、ウエスタンクロスの敗退。
 ウエスタンクロスの敗退は西のエリアの敗退。
 これまで誰も成し遂げなかった銀河統一。

 その瞬間をギャラリーのライブ動画が全世界に伝えた。

 自分は悔しさよりも、新たな飛ばしの引き出しが増えた興奮に身体が震えていた。まだ、自分は成長できる。

ノーザンダ横顔微笑逆

東エリアのチームが次々と裏将軍の軍門に下った理由を肌で感じた。
この敗北は恥ずかしいものではない。新たな世界への入り口なのだ。


「また、死にぞこなった」
ギャラクシー・フェニックスの公式チャンネルから、裏将軍の決め台詞が配信される。

旗の受け渡しに裏将軍は出てこない。
突風教習船はギャラクシー号の中へと入ってしまった。

代わりに三将として飛んだ側近のアレグロ・ハサムが姿を現した。紫色の前髪が揺れている。

アレグロ後ろ目真面目

 自分たちの歴史が刻まれた十字がクロスするデザイン、ウエスタンクロスの旗を手渡す。

 先輩は情けないと怒り、後輩はふがいないと責め、同輩は愚かだとののしるかもしれない。旗を守れなかった責任は感じている。
 だが、気持ちはすっきりしていた。裏将軍の一番近くで競ることができた経験に、自分は勝敗以上の喜びを感じている。

 裏将軍の側近は落ち着いた男だった。銀河統一という偉業を達成したというのに興奮するでもない。

「今後、西のエリアでも公道での暴走には裏将軍の制裁が下る。伝えることはそれだけだ」
 事務的な物言いだったが嫌悪感は無かった。     (8)へ続く

第一話からの連載をまとめたマガジン 
イラスト集のマガジン

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48ノ月(ヨハノツキ)
ティリー「サポートしていただけたらうれしいです」 レイター「船を維持するにゃ、カネがかかるんだよな」 ティリー「フェニックス号のためじゃないです。この世界を維持するためです」 レイター「なんか、すげぇな……」