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銀河フェニックス物語 <恋愛編> 第六話 父の出張(9)
ティリーの父はレイターがティリーの家に泊まることを許さなかった。
銀河フェニックス物語 総目次
<恋愛編>第五話「父の出張」① (1)(2)(3)(4)(5)(6)(7)(8)
<恋愛編>のマガジン
「ごめんね、パパの話」
「あん?」
「せっかくの食事時なのに政治の話ばかりで、つまんなかったでしょ」
「そうでもねぇよ。家族の食事って、ジャックとアーサーの夕飯なんて会議室の続きだぜ」
将軍と将軍補佐の親子が会話している様子を想像して思わず吹き出した。
「おやすみ。明日十時にセントラルパークの噴水広場でね」
「おやすみ」
パパに気づかれないように軽くキスをして別れた。
*
翌日、気持ちのいい紫色の空が広がっていた。懐かしい故郷の空。見上げながら伸びをする。アンタレスAが赤く輝き、暑くも寒くもないデート日和だ。
家から歩いてすぐのセントラルパークは、緑があふれる広い公園で散歩に持ってこいだ。子どもの頃からよく出かけた。休日には出店も並ぶ。
わたし含めアンタレス人は真面目だ。約束の時間に遅れることはありえない。待ち合わせの五分前に噴水広場に到着した。レイターは仕事の時に遅れたことはないけれど割と適当だ。
と思ったら、彼はすでに屋台でポップコーンを買っていた。急いで近づく。お店の人と談笑していた。
「太陽飴はどこで買えばいい?」
「噴水の向こうにおいしい店が出ているよ」
「サンキュ」
太陽飴はアンタレスの名物菓子だ。
「おはよ、レイター、太陽飴を買うの?」
「ああ、アーサーが食べてぇんだとさ」
「それならちゃんとしたお店で買えばいいのに」
太陽飴はピンからキリまで色々な種類がある。お土産なら高級な箱詰め商品が店舗で売っている。
「いいんだよ、あいつに気を使う必要ねぇから」
レイターはポップコーンを高く投げて器用に口でキャッチしながら、屋台の飴屋の前に立った。
子どもの頃は親にねだってよく買ってもらったものだ。並んだ飴を上から見るのがちょっと新鮮。真っ赤で大きなビー玉のような太陽飴は直径が二センチぐらいある。飴を一周するラインの色ごとにトレイに並んでいた。
「ポップコーン屋から聞いてきたんだけどさ。グレープ味の太陽飴が欲しいんだ」
「はいよ、紫のラインがグレープ味だよ。プレーンもお勧めだよ」
プレーンはラインが入っていない。
「ティリーさんは、何味がいい?」
「じゃあ、サイダー味」
水色ラインのサイダー味は子どもの頃から大好きだ。
「サイダー味とグレープ味とプレーンを二つずつ」
屋台の太陽飴はばら売りだ。おばさんが景気よく紙袋に詰めてくれる。
「はい、どうぞ」
鐘の音が響き始めた。十時だ。
広場の噴水が一列に並んで吹き上がった。きれいな音色に合わせて水の高さが変化する。波のようだ。小さな子供たちが手を伸ばして歓声をあげる。涼しい風が吹いてきた。
ベンチに腰掛ける。
のんびりしている。ソラ系とは時間の流れが違う。デートみたいだ。いや、実際デートなのだけど。
隣に座るレイターがポップコーンをパラパラと地面に投げた。鳩が何匹かが寄ってくるのをぼんやりと見る。
「こいつら、旨そうだな。捕まえて夕飯にするか」
ムードが一気に崩れる。
「は? やめてよ。アンタレスでは鳩は食べません」
「栄養価も高くて、いい値で売れるんだぜ」
「ソラ系と一緒で、ハトは平和の象徴なんだから」
「平和ねぇ。こいつらみたいに簡単に餌付けできりゃいいんだけどな」
鳩たちは一心不乱にポップコーンをついばんでいた。
水色のラインが入った太陽飴がわたしの目の前に差し出された。
「ほれ、餌付けだ」
餌付け、という言葉は気に入らないけれど、レイターの料理につられている自分がいることは確かだ。
「ありがと」
サイダー味の刺激が口の中でシュワシュワと広がる。スッとするこのジャンクな感じ。子どもの頃から変わってない。あの頃は大きな飴で口がいっぱいになったけれど、今はしゃべるのにちょっと苦労する程度だ。
ソラ系の洗練されたお菓子とは違う。でも、これはこれでやっぱりおいしい。
口の中の飴が溶けかけたところで、気になっていたことをレイターの耳元で聞いた。
「仕事ってどうなってるの?」 (10)へ続く
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