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銀河フェニックス物語<少年編>第十一話 情報の海を泳いで渡れ(9:最終回)

レイターの周りに情報が集まる理由をアーサーは聞いてみた。
銀河フェニックス物語 総目次
<少年編>第十一話「情報の海を泳いで渡れ」
<少年編>マガジン

 レイターはおどけたように肩をすくめた。
「あん? 簡単さ。俺が情報を持ってるってみんなが思ってるからさ。情報は情報を持ってる奴のところに集まる。食堂は噂の発生地だ。情報を確かめようと俺に寄ってくる奴がいれば、そいつの動き自体が情報になるからな」

12正面 口丸

「噂話だけじゃない。君は実際に情報を持っている。それにはネタ元が必要だ」
「まあな、噂話を欲しがってるネタ元ってもいるのさ」
「艦長か」
「言わねぇよ。情報源の秘匿だ。ネタ元を裏切らねぇことが大事だからな。大体、あんたは情報をたくさん持ってるくせに使い方を知らな過ぎるんだよ。もったいねぇ。情報は金と一緒、動いてこそ価値が上がんのに」
「秘匿すべき情報を明かしたり、解禁前に伝えるわけにはいかない」
「いやいや、坊ちゃんはリークの方法を勉強したほうがいいぜ。その情報を必要としてない奴に流すとか」

「必要としていない?」
「そうさ、毒にも薬にもならねぇ奴さ。けど、情報を持ってることを知らせておくことが、後から役に立つ」
 情報が情報を引き寄せる。
「君が利益を得るためにか」

少年やや口

「あんたや、連邦軍のための使い方だってあるさ」
 レイターのネタ元、おそらくアレック艦長はそれをわかって彼を利用しているということか。

「あんたの欲しい物は秩序。だから、秩序が乱れる情報に食いついてくる。解禁前の人事情報の漏洩とかな。ちなみに、この間のズーマの昇格を艦内のみんなが知ってる、ってのはウソ」
「な、何?」
「フェイクさ。あんた、あれ聞いて慌てて俺の情報が欲しくなっただろ」
「……」
 図星だ。
「あの人事情報は昇進が決まったズーマ本人にだけ、おめでとう、ってこっそり伝えた。仕事への意欲が増してたぜ。この話が外に漏れたら取りやめになるかも知れねぇって言っといたから、誰にも話さねぇし」
 アレック艦長はレイターを通じて本人に伝わってもいいと考えたのだろう。そして、レイターは情報を引き渡した先が不都合な漏洩をしないか、きちんと見定めている。
 
「最終決裁の段階で変更となったら、どうするつもりだったんだ」
「俺の信用が落ちるだけさ。面白いことに、情報を与えた奴って、俺に借りを作りたくねぇのか別の情報を返しにきてくれるんだよね。ズーマの持ってる寄港地情報は助かるぜ」
「それはダグ・グレゴリーに教わったのか?」

 饒舌だった彼は言葉を止めてくうを見た。僕の指摘で気づいたことを受け入れた顔。
「そうだな、相手の欲しい物を押さえて優位に立てと。のどの乾いた相手に水を持って交渉すれば、水を与えて飼い慣らすことも、水を与えず脅すこともできる。何より強いのは情報だ、って陣取りゲームでコテンパンにやられて、俺は随分泣かされたんだ」
 
 情報の扱いにたけている。こういう人種を僕は知っている。
 将軍家には直轄の部が存在する。特命諜報部だ。中でも隠密班のメンバーは情報を嗅ぎつけ、操る能力に秀でている。時にはフェイク情報も織り交ぜる。
 彼らと共通する感覚がレイターの中に見える。それはダグが教えたというより、ダグがその才を見抜いて引き出したに違いない。
 
「君は特命諜報部に興味はあるか?」
「は? 俺をスカウトするなら戦闘機部隊だろが」
「冗談だ」
「ったく、あんたの考えてしゃべるジョークはちっとも面白くねぇんだよ。自分が天然だってことを自覚しろ」

 レイターの長けた情報収集能力。将来、特命諜報部員として働かせる選択肢はあるのか。いや、味方にしたところで、彼が僕の言うことを素直に聞くわけもない。だが、この能力を裏社会で発揮されては危険だ。

「あんた、何笑ってんだよ。気持ち悪りぃ」
 まだ見ぬ未来の想像に怯えた自分に対し、僕は笑いを止めることができなかった。     (おしまい)第十二話「図書館で至福の時間を」へ続く

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<出会い編>第一話「永世中立星の叛乱」→物語のスタート版
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48ノ月(ヨハノツキ)
ティリー「サポートしていただけたらうれしいです」 レイター「船を維持するにゃ、カネがかかるんだよな」 ティリー「フェニックス号のためじゃないです。この世界を維持するためです」 レイター「なんか、すげぇな……」

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