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銀河フェニックス物語<恋愛編> 第四話(3) お出かけは教習船で
月の御屋敷に置かれていた裏将軍の愛機『突風教習船』をティリーは操縦してみた。
銀河フェニックス物語 総目次
<恋愛編>お出かけは教習船で (1)(2)
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必死に機体を立て直す。
横からレイターの手が伸びて軽く操縦桿を支えた。何とか水平を保つ。
「うまい、うまい」
手を離したレイターは面白そうに笑っているけれど笑い事じゃない。
「このまま、周回航路まで行ってみようぜ」
「む、無理よ。やっぱりこの船、わたしにはセッティングがシビアすぎるわ」
「いいからいいから、俺がついてる」
トクンと胸が鳴る。俺がついてる、という言葉にわたしは弱い。
「どうなっても知らないわよ」
軽くアクセルを踏んだ。
次の瞬間、いきなり身体が後ろへ引っ張られた。加速Gだ。
「な、何? このスピード」
上昇した時にも感じたけれど、すごい加速だ。見る間に引力圏も抜けてしまった。
「こいつ、メガマンモス積んでるから」
忘れてた。裏将軍の愛機『突風教習船』のエンジンのことを。メガマンモスは馬力が命という直線番長だ。とにかくパワーがあって、初心者同然のわたしに扱える代物じゃない。
レイターが無敗の貴公子と戦ったS1最終戦で機体に搭載していたのもメガマンモスだった。
そのエンジンで銀河最高速度を更新したのだ。めまいを起こしそうになる。
「この船、わたしには絶対無理」
と宣言したところで、あれ? スムーズに動き始めた。
「あんた、もうちょっと肩の力を抜いてみな」
レイターの言うとおりに力を抜く。
思ったより加速が制御できる。右、左、と考えている方向に船がきちんと飛んだ。
周回航路に入った。
鳥が風に乗って飛ぶような滑らかな飛行。自分の手足のようにイメージ通りに船が動いていく。ガレガレさんの船より操縦がしやすい。
わたし、メガマンモスを扱えてる?
レイターのアドバイスのお陰だろうか?
それとも、シビアなセッティングの『突風教習船』だからだろうか?
いつもは苦手な操縦が面白い。心が弾む。どこまでも飛んでいきたい気分だ。
力みが抜けて、急に操縦がうまくなったみたい。わたしには実は隠れた才能があるんじゃないだろうか。
と、突然、前を飛ぶ船が右折した。
ぶ、ぶつかる。
ブレーキを踏み込む。間に合わない。頭が真っ白になる。
操縦桿をぎゅっと握りしめた。
と、教習船は勝手に下降し、右折した船の下をスルリと潜り抜けた。
わたしは何もしていない。自動で衝突回避装置が作動したのだろう。それにしても随分となめらかな動きだった。
「ティリーさん、飛ばすだけじゃなくちゃんと他の船の動きも見てろよ。あいつ、ウインカー出すのが遅かったけど右折するってわかってたじゃん」
ちらりと横を見るとレイターが教官席の前にある操縦桿を指で操作している。
「もしかして、教官席が生きてるの?」
「ああ、さっきつないだんだ」
「衝突回避装置が働いたんじゃないの?」
「飛ばし屋がそんなもん積んでたら、攻められねぇじゃんか」
わたしの操縦をレイターが補正しながら飛ばしていたのだ。どうりでうまく飛ぶはずだ。
わたしに操縦の才能がある、なんてことはなかった。
「それならそうと、先に教えてくれればいいのに」
「飛ばしてる間、楽しかっただろ」
レイターがニヤリと笑った。
「……」
彼の言う通り、わたしは自由に操縦している感覚を堪能していた。
思い出した、わたしの彼氏はこういう面倒な性格だ。
「このまま、アステロイドまで行っちまうか」
「え?」
わたしの答えも聞かずに、レイターは船を加速させた。
レイターがわたしのイメージする飛ばしを具現化してくれる。不思議な感覚だ。船が自分の思う通りに動く、って何て気持ちいいのだろう。
普段は助手席ばかりのわたしだけれど、船に乗るのは大好きだ。実はスピード狂の気がある。アクセルを踏んで飛ばしてみる。
助手席を見る余裕はないけれど、レイターが楽しんでいるのが伝わってくる。
「レイターはいいな」
「あん?」
「船、操縦するの楽しいでしょ?」
「あ、ああ?」
銀河一の操縦士にとって当たり前のことを聞かれて、返事に困っている。
「思い通りに操縦できるって、うらやましいな」
わたしが船のバランスを崩すと、あわててレイターが立て直す。
「ったく、あんた、そんなことやってっからエンスト起こすんだよ。ここはアクセルふかしちゃダメなんだ」
はあ、目からうろこだ。
教習船を通じてレイターとつながっているように感じる。
「楽しいわね」
「どこがだよ。こっちは必死だ」
言葉とは裏腹にレイターの声は明るい。思わず口がほころぶ。幸せだな、って思った。 (4)へ続く
<出会い編>第一話「永世中立星の叛乱」→物語のスタート版
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