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銀河フェニックス物語<少年編> 第五話(2) 誰にでもミスはある
パトロール中にアーサーの入力ミスで巨大惑星の引力圏に引き込まれそうになってしまった。抜け出すべくレイターが操縦を続ける。
・銀河フェニックス物語 総目次
・<少年編>第四話「腕前を知りたくて」まとめ読み版 (1)
・<少年編>のマガジン
位置ポイントと引力圏が交差する。ここが限界だ。
と、ふわっとGが軽くなった。
うまい。
機体がきれいに流れだした。制御が効くところまで一気に飛び出す。
「そら、これで自由の身だぜ」
ふうぅ。ゆっくりと息を吐く。危なかった。臨界点ギリギリだ。脱出装置のスイッチにかけた指がかすかに震えている。額から汗が流れ落ちた。
「すまなかった。僕の入力ミスだ」
「ってか、あんた便利で感心するよ。電算システムより計算速ぇ」
レイターは声を出して笑った。
いや、感心すべきはレイターの判断だ。この状況で、データ差し替えよりモード逆算を思いつくとは。
*
「申し訳ありませんでした」
帰還した僕は戦闘機部隊隊長のモリノ副長の前で頭を下げた。
入力ミスで戦闘機を一台お釈迦にするところだったのだ、厳正な処分が待っているはずだ。
だがおかしい、副長は何も言わない。
「処分は?」
「何のことだ? お疲れだったな。きょうは上がっていいぞ」
お咎めもなく帰された。将軍家の僕に気を使っているのだろうか。
部屋に戻った僕は、情報端末できょうの航行ログを開いた。
反省するために自分のミスを確認する。
機体が巨大惑星に近づく。ここで僕は重力に気を取られて入力ミスをした。なのに変だ。機体はスムーズに進み続ける。
誤ったはずの初期値が正しく入力されていた。巨大惑星の直ぐ脇を問題なく飛行したようにデータが書き換えられている。
レイターだ。彼しかいない。あいつ、何てことをするんだ。
振り向くとレイターは部屋のベッドの上の段で寝ころび携帯ゲームをいじっていた。
「レイター!」
「あん?」
「お前、航行ログを書き換えたな」
「ああ、変えたよ」
めんどくさそうに彼は体を起こした。
「どうしてそんなことを」
「だって、めんどくせぇじゃん。いろいろ聞かれるの。あそこは管制も切れてたからログさえ消せば誰にもわかんねぇよ」
「航行ログの書き換えは、宙航法七十二条違反だぞ」
「ばれなきゃいいじゃん。あんただって叱られなくてよかったんじゃねぇの」
「そういう問題じゃない!」
僕は真剣に腹を立てていた。こんなに怒ったことがこれまであっただろうか。
「艦長に報告する!」
僕の言葉を聞いて、レイターが驚いた顔をした。
「ちょ、ちょっと待て、報告するのは止めてくれよ」
彼は艦から追い出されることを極度に恐れている。
「君のことをどうこう言うつもりはないが、僕は僕のミスは隠蔽しない。きちんと報告する」
「ちっ、あんた、変わってるなぁ」
「何を言ってるんだ。航行ログを改竄するなんて、君がおかしいんじゃないか」
「そうでもねぇよ。一流パイロットだって、前に俺が書き換えてやった時には、涙流して喜んでたんだぜ」
「……」
その時、僕は気がついた。航行ログの書き換えは簡単にはできないことを。
僕は研究所でプログラムの解析をしたことがあるから書き換えの方法を知っている。
「どうしてお前、ログの書き換えができるんだ?」
つい、詰問調になる。
「あん? ダグんちにはいろんなプロがいてさ、宇宙船のデータ書き換えぐらい簡単だよ。金融機関のデータは難しいけど」
とレイターは肩をすくめた。マフィアのプロ。ブラックハッカーか。
「そのプロにプログラミングを教えてもらっていたというわけか」
「教えてくれる、ってほど親切じゃなかったけどな」
想像がつく。航空プログラミングを知ろうと、彼はハッカーにしつこく取り入ったに違いない。
それで彼は、ハイスクールの数学とプログラミングがわかっていたのか。 (3)へ続く
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