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銀河フェニックス物語 <番外編> 休日のすごし方 ショートショート
わたしの彼は『銀河一の操縦士』でボディーガード。
だから、デートでも横に並んで手をつないで歩くことはほとんどありません。手がふさがることを嫌がるんです。
彼の背中を見て歩いたこともないですね。
「あんたは方向音痴なんだから、とにかく俺の前を歩いてくれ」
と頼まれるからです。警護対象者が視界から消えると精神衛生上よくないとこぼしていました。
だから、わたしは彼と喧嘩をした時には、困らせるために船から出ていきます。
「勝手にしろ」
と彼は言いますが、心配でこっそりとわたしの後をつけているようです。
道に迷うとなぜか不機嫌そうな顔で姿を見せるのです。ストーカー気質だと思います。
かと言って、拘束されているようには感じません。おそらく絶妙な距離の取り方を彼が仕事上身につけているのでしょう。
せっかくの休日ですが、きょうはレイターは警護のアルバイトに出掛けているので会えません。
操縦士の彼にとってボディーガードは副業ですが、どうやら本業より副業の方が実入りがいいようです。
彼は、ボディーガード協会の中で、政府の要人や有名人を警護する最高ランクの3Aに属していて報酬が高いのです。聞いた話だと日当が百万リルということもあるそうです。
きょうも誰でも名前を知っているような著名な大富豪の自宅へ出かけていきました。
豪華客船でハイジャックに会った時には、わたしの目の前で王妃が一億リルでレイターに警護を依頼していました。それだけ彼が優秀で、命を懸けた仕事だということではあるのですが。
操縦士でボディーガードというわたしの彼は、もう一つ人に言えない裏の顔を持っています。
実は連邦軍の将軍家が直轄する特命諜報部員、つまりスパイなのです。
次期将軍のアーサーさんからこれまた報酬が高い危険な仕事を請け負い、しかも、何かと手当を上乗せさせています。とにかくお金にうるさいのです。
こうして得た資産を運用し、彼は相当な利益を出しているようです。
なのにいつもギリギリの生活をしています。というのも手に入ったお金はすぐ船に使ってしまうからです。
フェニックス号を維持するのが大変なのは理解できますが、それだけではありません。『銀河一の操縦士』は今の船で満足できないのか、次から次へと改修し続けていて、どうやら、かなりの借金もしています。
「ティリーさん、死んだ先に金は持っていけねぇんだぜ。生きているうちに使わなくちゃ意味ねぇだろが。明日生きてるかわかんねぇんだから」
と彼は言います。レイターの仕事はどれも死と隣り合わせ、彼の言い分がわからなくもありません。
でも、それって、彼女のわたしはどう考えればいいのでしょう。
明日生きていることを前提として、二人の未来をイメージせずにはいられません。
誕生日は一緒に過ごしたい。旅行にだって出かけたい。
だから、お金は使い切らないでおきたい。
彼に会えない休みの日には、ついついそんなことを考えて過ごしてしまうのでした。 (おしまい)
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<出会い編>第一話「永世中立星の叛乱」→物語のスタート版
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