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銀河フェニックス物語 <恋愛編> 第五話(3) 発熱の理由
体調を崩したティリーの代理でレイターが取引先へ資料を届けることになった。
銀河フェニックス物語 総目次
<恋愛編>発熱の理由 (1)(2)
<恋愛編>のマガジン
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レイターが帰ってきた音で目が覚めた。
近づいてくる彼の顔を見て不安になった。眉間にシワを寄せている。わたしにどう説明しようか悩んでいる顔だ。まさか、取引先で厄病神が発動した?
「どうしたの? 何があったの?」
あわてて、身体を起こす。頭痛は消えていた。
お客さまからの紹介案件だ。やっぱり無理してでもわたしが行けばよかった。
「これ」
レイターはソファーの真向かいに座ると、ポケットから白い契約カードを取り出した。
「え?」
見慣れたカードを受け取る。契約ボードにかざすと先方のサインが入った契約書が映し出された。熱のせいで幻覚が見えるのだろうか。ハル・ムントル社長の名前が読める。直筆だ。わたしがサインを入れれば契約が成立する状態だ。
目を凝らして確認する。幻覚でも夢でもない。社長のサインは存在している。意味が分からない。
きょうは資料を届けるだけの約束だった。今週は決済をする上司がいないと聞いていたのに。
「どういうこと? これ、偽造の契約書じゃないでしょうね」
この人は、偽造でも何でも得意だ。
「本物だよ」
ムッとした声でレイターが答えた。
契約書の中身を確認する。
燃費がいい小型船アラマット十機の購入を、なんと、値引き前の見積価格で合意していた。ライバルのギーラル社と比較検討した形跡もない。厳しい値下げ要請を覚悟していたのに。
レイターがかつて優秀な営業部員だったことを思い出す。宇宙船に詳しく人たらしなこの人は月間販売記録の保持者なのだ。どんな手を使ったのかわからないけれど、社長のサインがあるこの契約書は有効だ。
内容はクロノスにとって好条件だ。わたしではこんな契約は取れなかったに違いない。
レイターは黙ってわたしを見ていた。いつものようなおちゃらけた顔ではなく、無表情だ。何を考えているか読み取れない。
彼は気を利かせたつもりなのだろうか。
契約が取れればわたしが喜ぶと思ったのだろうか。
でも、これはわたしの仕事だ。
わたしのお客さまからご紹介いただいた、大事な大事な取引で、一生懸命丁寧に準備を重ねてきた案件だ。
行き場のない感情で身体中の細胞が沸騰しそうだ。ただでさえ熱っぽい身体が爆発しそうになる。かと言って、契約を取ってきたレイターを怒るわけにもいかない。
「これは、一体、どういうことなの?」
苛立ちを抑え込んで問い詰めるわたしに、レイターは困った顔をした。
「たまたま、ムントルの社長とエレベーターで乗り合わせたんだよ」
経済ニュースで見たハル・ムントル社長の人懐っこい丸顔が頭に浮かんだ。
「知り合いだったわけ?」
声に不快感が入り混じる。
レイターの人脈の広さには今更驚かない。
知り合いなら知り合いと先に言ってくれればいいのに。
「いや、初対面」
「どうして初対面で、この額で契約が取れるのよ。相手は激安に命を懸けているプロなのよ」
レイターが有能なのか、自分が無能なのか。突っかからずにいられない。
<出会い編>第一話「永世中立星の叛乱」→物語のスタート版
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