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銀河フェニックス物語<少年編> 流通の星の空の下(2)
・<少年編>「流通の星の空の下」(1)
・銀河フェニックス物語 総目次
・【少年編】のマガジン
「お兄さんのお店は、あっちのお店より断然いいね。みんなに、この新鮮なおさかな、食べさせたいなぁ」
人懐っこい笑顔でレイターが店員を見つめる。
「そうか、じゃあ負けてやるよ」
「ほんと? 一尾五十リルって書いてあるけど四十でどう?」
「四十?・・・五十でもかなり安いんだぜ。四十五だな」
「ザブさん、どうしよう?」
ザブリートさんのことを呼び捨てではなく、さん付けで呼んだ。間違いなく演技だ。
だが、四十五リルで買う予算が取ってある。
これ以上値切る必要はない。
「次の停留地まで遠いから、たくさん買わなくちゃいけないんだよね。四十五じゃちょっと無理だよね・・・」
店員の方をちらりと見る。
「たくさん、ってどのくらいだよ?」
レイターがザブリートさんの顔を窺うように振り向く。
「ねぇ、ザブさん。五ケース買うのはどうかなぁ?」
「そうだな」
レイターが頼み込み、ザブリートさんがうなずく。
というか、最初から五ケース買う予定だ。
「五ケース買ってくれるのか?」
店員が興味を示した。ここで売り切る方が得か考えている。
「ここのおさかな、おいしそうだから、たくさん買うよ。お兄さん、お願いします」
レイターはまるで天使のような笑顔を見せた。
「わかったわかった、坊主四十で持ってけ!」
「ほんと! お兄さん、ありがとう」
一体どこでこんな駆け引きを覚えたのか知らないが、僕には絶対出来ない。
「お前、商売上手だな。助かるよ」
ザブリートさんが感心している。
「まあな。盗むより面倒だが合法だ」
彼の言葉は盗みは簡単だ、と言っているようにも聞こえた。
「アーサー、お前もレイターと一緒に値切り交渉やってみるか。社会勉強になるぞ」
「結構です」
僕には無理だ。
レイターが笑った。
「ザブ、将軍家が値切ってたら、ゴシップ紙に売れるぜ」
自分は人を欺くような真似はできない。
一方で僕は自分に不安を感じた。
将軍家の交渉は生き馬の目を抜くように厳しいものだ。騙してでも裏切ってでも、完遂しなければならない任務がある。
目的の食材を買い終えた後も、ザブリートさんとレイターは帰るそぶりも見せないでブラブラしている。
これまで僕は、こんな風に目的もなく無駄に時間を過ごしたことは無い。落ち着かない。
「ザブリートさん、船へはいつ戻りますか?」
「はあ? あんた帰りてぇの? 楽しくねぇの?」
レイターが大きな目をさらに大きく見開いた。
青空の下、地上を歩き回るのは純粋に楽しい。だが、今は任務中だ。
それにしても、世界は文献だけでは把握できないことを痛感する。
市場という小さな宇宙に、人の営みが凝縮されている。
流通の星には、物が溢れている。この星に来れば、手に入らないものはない。 (3)へ続く
・<出会い編>第一話のスタート版
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