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銀河フェニックス物語<少年編> 第一話(7) 大きなネズミは小さなネズミ

乗組員とレイターが親しくなるにつれてアーサーの不安は募った。
銀河フェニックス物語 総目次
「大きなネズミは小さなネズミ」まとめ読み版
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 その日は射撃訓練だった。
 訓練は重要な任務だ。艦内の後部にある訓練場でシミュレーション機が浮かび上がらせる敵兵士を本物のレーザー銃で撃つ。
 
 レイターは僕たちの訓練を待機区域でじっと見ていた。

12横顔@2にやり

 十二歳の僕が言うのも変だが、十二歳の少年というものは銃に興味があるらしい。彼が参加したくてウズウズしているのが伝わってくる。隊員は皆、そのことに気が付いていた。だが、特段の事情無く一般人に銃を触らせてはならないと、内規で決まっているから声をかける者はいない。

 ところが、
「お前もやってみるか」
 訓練の休憩中にアレック艦長がレイターを誘った。

 また、艦長の気まぐれが始まった。このふねではアレック艦長の気まぐれは内規を超える特段の事情だ。
「いいの?」
 レイターの目が輝いた。
「ま、どうせシミュレーションだからな」

 民間人と敵兵士の三次元映像が次々と動き出す。軍服を着た兵士を撃てば得点が加算されるが、民間人を撃つと減点される。

「銃の使い方わかるか?」
「ゲーセンでやったことある」
 確かにこの訓練はゲームセンターのゲームと似ている。だが、この訓練では扱うのは本物の銃で勝手が違う。ソラ系では銃の所持には免許が必要で、僕のような例外でなければ成人にしか許可は下りない。
 アレック艦長が銃を渡す。突然、レイターが僕たちに銃を向けたらどうするつもりなのか。

 僕は手にしていた銃の引き金に指をかけた。

少年後ろ目む

 僕の心配をよそに、レイターはシミュレーターに向かって銃を撃ち始めた。基本がまるでなっていない構えだ。

 ゲームで慣れているというレイターは、いい反応をした。めったやたらに撃っているようで民間人を器用に避けている。
「ほう、なかなかやるじゃないか」
 アレック艦長が楽しそうに声を上げた。

 命中率六十五%。

 何だろう、僕は彼の動きに不自然なものを感じた。説明できない違和感。
 僕はもう、彼が何をしても怪しく感じてしまう。

「俺、大きくなったら『銀河一の操縦士』になるんだ」
 レイターはふねの至るところで自分の夢を大人たちに話していた。

 そんなレイターと戦闘機部隊が仲良くなるのは必然だ。彼は暇があると格納庫に顔を出した。カタパルト清掃の当番だけはさぼることがなかった。

 レイターはシミュレーターを使った宙航戦闘機訓練をやりたがっていた。だが、戦闘機部隊の隊長を務めるモリノ副長は厳格な人だ。部外者に触らせたりしない。

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 ところが、射撃訓練をアレック艦長がレイターに解禁した事で、事情が変わった。

 戦闘機シミュレーターの訓練にアレック艦長が顔を出した日のことだ。
「ねえねえ、触ってみていい?」
 レイターが艦長に聞いた。あいつ、タイミングを狙っていたな。
「お前、操縦士になりたいんだって? やってみるか」
 案の定、アレック艦長は簡単に了承した。
「やったぁ」

 モリノ副長は眉をしかめたが、艦長の言葉は絶対だ。

 レイターは実機の操縦席と同型のシミュレーターに乗り込んだ。身体が小さくて操縦桿に届かない。浅く不格好に腰掛けた。隊員たちから小さな笑い声が上がる。

 モニターに甲板と宇宙空間が映し出された。
「見ててね」
 と言うが早いか、一気にスタートさせた。これはゲームじゃない。あんな加速で飛び出すのは無理だ。
 が、次の瞬間、僕はモニターに釘付けになった。綺麗にぶれずに飛んでいる。敵の迎撃機が飛んで来た。トリガーを引いて撃つ。命中。
「いやっほーい!」
 次の敵機がミサイルを撃ってきた。交わしながら撃墜。

 続いて制宙空戦闘機が接近戦を仕掛ける。  (8)へ続く

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48ノ月(ヨハノツキ)
ティリー「サポートしていただけたらうれしいです」 レイター「船を維持するにゃ、カネがかかるんだよな」 ティリー「フェニックス号のためじゃないです。この世界を維持するためです」 レイター「なんか、すげぇな……」

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