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銀河フェニックス物語 <ハイスクール編>最終話 花は咲き、花は散る(5)
・銀河フェニックス物語 総目次
・<ハイスクール編>マガジン
・「花は咲き、花は散る」(1) (2) (3) (4)
フローラの部屋へ入ると、ちょうど眩しいほどの朝日の光が差し込んできた。
レイターがバルコニーへと続くガラスのドアを開けた。風が入り込み部屋中に花の香りが充満する。
そして、
フローラがうっすらと目を開けた。
「お兄さま」
かすれた小さな声だったが、はっきりと聞き取れた。
「フローラ!」
父上も部屋へ走ってきた。
「お父さま」
「フローラ、気がついたのか」
「お父さま、無理を言ってごめんなさい。わたしのわがままをたくさん叶えて下さって、ありがとうございました。わたし、本当に幸せです。それから、お兄さま…」
私はフローラの手を握った。細い指だった。
「わたしだけ、こんなに幸せで申し訳ない。お兄さまも幸せになってね」
「ああ」
うなずく私に笑いかけると、妹は疲れたように目を閉じた。
一言喋るのに全身の力を振り絞っているように見えた。
命の炎が燃え尽きようとしている。
「レイター……」
フローラはレイターを呼び、再び目を開けた。
レイターは窓辺に立っていた。
ゆっくりと一歩ずつフローラのベッドに近づく。彼は恐れている。フローラは最後の言葉を伝えようとしている。それを伝えたらフローラはどうなってしまうのだろうか。
彼の緊張感が私にも伝わる。
「わたし、夢の中で、ずっと、旅していたの。あなたと一緒に。あなたが操縦する船で…。インタレスには、中型船でも行けるのね」
レイターはフローラの頬にそっと手を当てた。
「ああ、そうだよ。中型船なら早く買えるさ。だから俺たちの船で行こうな。『銀河一の操縦士』の操縦で新婚旅行だ」
二人は、母の故郷、さいはてにあるインタレスへ旅をするつもりだった。もはや誰も生存しない惑星状星雲の第十八番惑星。
「絶対に『銀河一の操縦士』になってね。約束よ」
「当たり前さ、約束する。だからお前も元気になるんだ」
フローラは悲しそうにレイターを見つめた。
「……レイター、ごめんね」
「あん?」
「新婚旅行、行けなくてごめんね」
「何言ってんだよ、元気になって一緒に行くんだろ。なあに、待ってるから安心しろ。船買う金を貯めるのだって簡単じゃねぇし急ぐことねぇよ。俺たちの夢じゃねぇか、俺たちの船で行くって」
「あなたが、宇宙を飛んでいるところ、わたし、どこかで見てる」
「どこかじゃねぇよ、俺の隣にいるんだろが! 一緒に銀河中で花を売りまくるんだよ!」
フローラは一言一言ゆっくりと言葉を発した。小さな声だったがはっきりと聞き取れた。
「レイターは、わたしのこと、忘れていいから」
「は? フローラ、何言ってんだ。俺があんたのこと忘れるわけねぇじゃんか」
レイターは大きな目をさらに見開いた。
「あなたと会えて、わたし、本当に、ほんとうに、幸せだった」
フローラは静かに微笑むと、ささやくような声で歌を歌いはじめた。
レイターがフローラに教えた子守唄。
音楽教師だったというレイターの母親が創作した歌。
「月の光浴びて、宇宙船が行くよ。空を越えて、星を越えて、船の行く先に未来があるよ・・・」
フローラの目にはレイターの船が宇宙を飛ぶ姿が見えているようだった。
そして、ゆっくりと目を閉じた。
「フローラ、行くな! 俺も一緒に連れて行け! 頼む、俺を置いていくんじゃねぇ。お願いだ、神様、フローラを連れていかないでくれぇぇぇ!!!!」
レイターの叫び声が部屋中に響いている。
入り口にテッド先生が立っていた。
おそらくバブさんが呼びに行ってくれたのだろう。 (6)へ続く
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