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銀河フェニックス物語<恋愛編> 第四話(8)お出かけは教習船で
レイターに脅された暴走族の黒玉は謝りながら一気に退散していった。
銀河フェニックス物語 総目次
<恋愛編>お出かけは教習船で (1)(2)(3)(4)(5)(6)(7)
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「おい、アレグロ、大丈夫か?」
レイターの呼びかけにアレグロさんの元気そうな返事が返ってきた。
「レイター、お前、また伝説作ったな」
「あん?」
「復活した裏将軍が『突風教習船』で黒玉を返り討ちにしたなんて、当時を知ってる奴は涙流して喜ぶぞ」
「バカ言ってんじゃねぇよ」
「俺は全くざまあないな。ライトレーザーにやられて船が動かない」
「ここはコースだから早いところ移動したほうがいい」
と言いながらレイターはするりと後部へと移った。レイターが隣にいないと急に心細くなる。
「どうするの?」
レイターは服の上から簡易宇宙服を着用し始めた。
「この教習船でアレグロの船をレッカーするんだ。アームは積んでねぇからワイヤーを手動で結んでくる」
レイターが船外へ出るということだ。
「わたしはどうすればいい?」
「故障船信号を出して、もう少し船を近づけてくれ、頼んだぜ」
レイターはウインクをすると二重ハッチのエアロックを抜けて宇宙空間へと出て行った。
この船の操縦をわたしひとりでやらなくちゃいけないのかと思うと、気が重い。
とにかく船をアレグロさんの船の近くまでそろりと動かして止める。
「うまいうまい」
無線からレイターの声が聞こえた。
教習船につながったワイヤーを手にしたレイターは、担いだジェット・パックを噴射させてアレグロさんの船へ向かった。
その時、
ピピピピピ
警報音が鳴った。船が高速で近づいてくる。そうだここはコースだった。
「レイター、船が来るわ!」
「故障船信号出したか?」
操縦に気をとられて忘れてた。
信号ボタンが見つからない。
「ど、どれだっけ?」
焦ってパニックになる。
「右の二段目左から三つ目だ」
右の二段目、右の二段目……あった、あわててボタンを押す。
強力なライトが点滅し始めた。近づいてくる船の中で警報が鳴っているはずだ。
グワァン。
船は進路をギリギリで変更した。
さっきレイターが粉砕した小惑星のあたりで旋回し、猛スピードで飛び去っていく。
間に合った。
と息をつく間もなく、船が蹴散らした小惑星のかけらが飛んできた。かけらと言っても石のつぶてだ。外にいるレイター当たったらけがをする。
「レイター、危ない!」
わたしが叫ぶより早く、レイターはジェット・パックを操作して教習船の影に隠れた。
パラパラパラ……
船体にかけらが当たる音がする。
「レイター、大丈夫?」
「ああ。ただ、酸素ボンベの一つが直撃くらった。三分以内に終わらせるぜ」
それって大丈夫なの?
わたしの心配をよそにレイターはアレグロさんの船へ向かい、ワイヤーを取り付け始めた。
手際がいい。見る間に繋がる。セキュリティサービスの職員のようだ。
「よし、オーケーだ。ティリーさん、船の向きを変えて軽く引っ張ってくれ」
「わかったわ」
操縦桿を動かしながらアクセルを軽く踏む。
グォン。軽く踏んだはずなのに、船がいきなり進んだ。
「うわっ」
ワイヤーが鞭のようにしなる。強い力でレイターの身体をはじいたのが見えた。レイターが宇宙空間へ飛ばされていく。
「レイター! ごめんなさい!」
大声で呼ぶ。
「……」
返事が無い。レイターの身体がどんどんと遠ざかっていく。
「レイター? レイター!」
「……」
呼びかけに反応しない。通信機が壊れた? いや、はじかれたショックで気を失っているに違いない。
わたしのせいだ。どうすればいい? とにかく追いかけなくちゃ。
アクセルを踏む。
ガンッッツ。
衝撃が走る。ワイヤーでアレグロさんの船とつながっていることを忘れていた。教習船をうまく動かせない。
「レイター、目を覚ませ! 酸素が無くなるぞ!」
アレグロさんの声があせっている。
「レイター! 起きて!」
わたしは思いっきり叫んだ。 (9)へ続く
<出会い編>第一話「永世中立星の叛乱」→物語のスタート版
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